大手新聞社や通信社は2017年4月27日、無線LANの「ただ乗り」が無罪で電波法違反に当たらないとする判決が東京地裁で言い渡されたと一斉に報じた。

 報道によると、被告は身元を隠すため、他人の無線LANの暗号鍵を解読して利用。フィッシングの手口などでIDとパスワードを不正に入手し、金融機関サイトにアクセスして自分の口座に送金していたという。電波法違反には当たらないと判断されたが、不正アクセス禁止法違反などで懲役8年の実刑が下った。

 東京地検が控訴する可能性はあるが、今回の判決を受けた教訓は「無線LANをただ乗りされても罪に問えない可能性が高く、とにかくセキュリティ対策をしっかり実施して自己防衛するしかない」ということだ。

 セキュリティ対策を怠って被害を受ければ自己責任とも言えるが、今回の事件のように踏み台として悪用され、犯罪の片棒をかつぐようなことになりかねない。改めて無線LANのセキュリティ対策を徹底したい。

「通信の秘密」は法によってさまざま

 セキュリティに詳しい弁護士によると、日本国憲法第21条2項をよりどころとした「通信の秘密」は元々、電話や電報を対象としたもの。基本的には通信内容が盗聴されないことを根本としていたが、時代の変化とともに侵害の対象が広がり、現在は「知得」「窃用」「漏示」の3類型になっている。

 さらに電気通信事業法第4条で規定される「通信の秘密」では外延情報と呼び、通信内容だけでなく、通信当事者の住所や氏名、発受信場所、通信年月日といった通信の構成要素、通信回数(通信の存在の有無を含む)なども対象となり、プライバシー保護より厳格な管理が求められている。

 一方、今回の裁判で争点となった電波法では第109条で「無線局の取扱中に係る無線通信の秘密を漏らし、又は窃用した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」としており、「窃用」「漏示」が主な対象。元々、「知得」は除外されていた。

 その後、第109条の2(暗号通信を傍受した者又は暗号通信を媒介する者であつて当該暗号通信を受信したものが、当該暗号通信の秘密を漏らし、又は窃用する目的で、その内容を復元したときは、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する)で「知得」が加わったという。

 今回の裁判はまさに後者に当たるわけだが、「なぜか第109条の2ではなく、知得が対象外の第109条本体で立件しているので勝てるわけがない」(ある弁護士)という指摘が出ている。