NECは2017年4月、プライバシー保護とデータ活用の両立という顧客の課題を解決する「データ流通戦略室」を新設した。同社の顔認証技術などを顧客が導入する際に、法制度や倫理、社会の受容性など踏まえて、顧客に対してデータ活用の戦略立案や外部とのコミュニケーションなどを支援する。NECとしての提言も策定し、業界リーダーとしての立ち位置も確立する。

 米ベンダーではプライバシー保護の責任者としてチーフ・プライバシー・オフィサー(CPO)を置く例はあるものの、日本での動きは遅れている。NECは国内ベンダーとして先鞭をつけ、同社が強みとする顔認証技術を含むデータの活用で優位に立つ狙いがある。

 NECは約10人体制で同室を発足。単に人工知能(AI)やIoT(インターネット・オブ・シングズ)、顔認証を含む画像処理に関する技術だけでなく、マーケティングや法制度などの関連領域にも詳しいメンバーをそろえた。

 AIやIoTは使い方によって個人のプライバシーに深く関わるデータを扱う。「こうした技術を提供する会社だからこそ『NECは信頼できる』との評価を高めたい」と、同室長を務めるビジネスイノベーション統括ユニット主席主幹の若目田光生氏は話す。

技術導入は問題ない、データ取得こそが課題

 NECがデータ流通戦略室を新設した背景は、顧客が三つの課題を抱えている事実がある。

NECが「データ流通戦略室」を新設する背景
NECが「データ流通戦略室」を新設する背景
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 一つは、プライバシーに配慮しながらAIやIoTで個人データを活用するには、法制度への対応や、社会の受容性などを検討することが難しいという課題。現在、国などがAI研究拠点を作って技術研究の体制整備を進めているものの、「研究員らは個人データの取得や、データの非個人情報化に手間をかけている」と若目田室長は話す。

 つまり、顧客にとっては情報収集技術の導入よりも、法に抵触しないことや社会の理解を得てデータをどう取得するかにノウハウが無く、現場で試行錯誤しているいうわけだ。今回、データ流通戦略室は自らがデータ取得も支援できるようにノウハウを蓄積して、「顧客のビジネスモデルの変革も進めていく」(若目田室長)という。

 二つめは、技術の発達で法制度のグレーゾーン領域が増えてきたなか、対応が難しいという課題。例えば、顔認証技術をどう利用するかは、企業の検討や業界の自主的なルール作成を促している段階だ。実際に、企業や有識者、総務省、経済産業省から成るIoT推進コンソーシアムが2017年1月に「カメラ画像利活用ガイドブックver1.0」を公表したばかりである。