NTT東西は2017年4月6日、INSネットのディジタル通信モードの提供終了時期を2024年初頭に後ろ倒しすると発表した。2025年頃に維持限界を迎える加入電話網(PSTN)をIP網に移行することに伴う措置で、これまでは「2020年度後半に終了予定」と案内していた。当面の対応策として、既存のISDN対応端末を使い続けながらデータを送受信できる「メタルIP電話上のデータ通信」(補完策)も2024年初頭に提供する予定である。

「メタルIP電話上のデータ通信」(補完策)の概要
「メタルIP電話上のデータ通信」(補完策)の概要
出所:総務省
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 今回の“延命措置”は多くの企業にとって朗報。ISDN対応端末を更改するまでの猶予期間が延び、仮に更改が間に合わなかったとしても当面は補完策の利用でしのげる。ただ、補完策はIP変換で生じる遅延が大きく、EDI(電子データ交換)やラジオ放送などの用途では「実用面で厳しい」という評価が出ている。IP変換で生じる遅延は今回の補完策に限った話ではなく、アナログモデムを利用したデータ通信でも同じ。ISDNの提供終了ばかりが注目されているが、実はアナログモデムのほうが影響が大きいのではないかと懸念する声もある。

EDIでは処理時間が9倍超となるケースも

INSネットの主な用途と代替策
INSネットの主な用途と代替策
出所:総務省
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 企業におけるISDNの用途は多岐にわたる。POS(販売時点情報管理)システムやCAT(クレジットカードの認証端末)、警備、銀行ATM(現金自動預け払い機)、EB/FB(エレクトロニックバンキング/ファームバンキング)、ビル管理、エレベーター監視、G4 FAX、企業WAN(拠点間接続)などだ。NTT東西のINSネットの契約数は2016年12月末時点で約260万回線と底堅い需要がある。

INSネットの主な用途と代替策(続き)
INSネットの主な用途と代替策(続き)
出所:総務省
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 NTT東西は当初、光回線サービスや他社の無線サービスに切り替えてもらうことを提案していたが、ユーザー企業にとってはISDN対応端末の取り換えに費用がかかるだけでなく、毎月の通信料金も高くなることが懸念される。多くの反発を受け、「当面の対応策」として補完策の提供を決めた経緯がある。2016年9月12日には補完策の検証環境を用意し、関係団体や企業と検証を重ねてきた。

 もっとも、冒頭で触れた通り、補完策に過大な期待は禁物。接続性に関しては特に問題ないようだが、IP変換に伴う遅延で処理時間が増加するケースがあり、レスポンス重視のシステムでは実用に耐えない可能性がある。