人工知能(AI)の開発者が研究開発に当たって留意すべき原則「AI開発ガイドライン(仮称)」の素案を策定するため総務省が設置した産官学会議から、AIスタートアップのPreferred Networks(PFN)が離脱していたことが明らかになった。

 Preferred Networksは深層学習(ディープラーニング)開発のスタートアップ企業で、深層学習フレームワーク「Chainer」の開発元としても知られる。

 総務省 情報通信政策研究所は、同ガイドライン素案策定のための産官学会議「AIネットワーク社会推進会議」を主催している。2016年12月には、素案策定に向けた論点整理を公開した。

 この素案は、日本政府がOECD(経済協力開発機構)などに提案することを目的に策定するもので、「日本の法制度に直接反映させることを想定したものではない」(同研究所)という。

 だがこの方針に対し、2017年1月まで同会議に参加していたPFN 最高戦略責任者の丸山宏氏は、「この開発ガイドラインを政府から出すと、日本の研究開発の萎縮を招きかねない」と異を唱える。同じく同会議に参加していたPFN 社長兼最高経営責任者の西川徹氏と共に、同会議の委員から外れた。

 今回の開発ガイドラインに反発するPFNの真意はどこにあるのか。丸山氏に聞いた。

写真●Preferred Networks 最高戦略責任者の丸山宏氏
写真●Preferred Networks 最高戦略責任者の丸山宏氏
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汎用AIと特定AIを区別せず議論

 「我々が参加した会議には、機械学習の専門家が少なく、結果として現場の声が十分に反映されなかった。汎用人工知能(筆者注:広範な領域で人間と同等以上の知能を発揮し、問題を解決できるAI)と、ある分野に特化した機械学習の技術を区別せずに議論していた」。これまで会議に参加していた丸山氏は、議論の中身についてこう不満を口にする。ターミネーターのようなSF(サイエンスフィクション)で語られる汎用人工知能に対する脅威論が、会議でもそのまま展開されていたという。

 「こうした議論の結果として開発ガイドラインが作られ、機械学習のイノベーションが萎縮されることがあってはならない。日本が萎縮すれば、中国や米国といった研究開発のライバルに利するだけだ」(丸山氏)。