モバイル向けや組み込み向けのプロセッサで確固たる地位を築いた英アーム(ARM)。2017年3月21日には、中国・北京市内で発表会を開催し、次世代のマルチコアアーキテクチャー「DynamIQ」を発表した。DynamIQとはいかなる技術なのか、その詳細と導入の背景を解説する。

北京市内のホテルで発表を行った英アーム副社長のナンダン・ナヤンパリー氏
北京市内のホテルで発表を行った英アーム副社長のナンダン・ナヤンパリー氏
(撮影:塩田 紳二)
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 DynamIQとは、ARMのプロセッサ「Cortex-A」シリーズの新しいマルチコア構成技術の名称だ。従来のマルチコア構成は、組み込み機器を前提としていたために、ARMがシェア拡大を狙うサーバー用途などでは使いにくい部分があった。

 ARMは、モバイル機器や組み込み用途だけでなく、今後伸びるであろうそれ以外での利用を考慮して、この新しいマルチコア構成を導入した。ただし、DynamIQの構成を採るには、プロセッサコアを専用に設計する必要がある。DynamIQに対応するのは、今後登場する新しいプロセッサのみとなる。

これまでの複数コアの混在は制限が多かった

 現在のCortex-Aで使われているマルチコア構成は、4コアを1クラスター(1組)として構成する。4コアまでなら、同種のCortex-Aシリーズプロセッサを組み合わせて利用できる。

 ARMは、性能の高いプロセッサコアと、省電力コアを組み合せて、負荷に応じて動作するコアを切り替える「big.LITTLE」を開発しており、既にbig.LITTLEを使ったプロセッサが実用化されている。big.LITTLEでは、高性能コアと省電力コアは異なるため、クラスターは2組必要になる。コアは最大で4個+4個の8個だ。

 異種コア混在不可のクラスターが2組なので、コアは2種類しか組み合わせられない。コア数を増やすのも難しい。原稿執筆時点では、サーバー向けなどに3組以上のクラスターを組み合わせることは不可能ではないが、1クラスター当たり4コアまでの制限は変わらない。

 スマートフォンなどで利用するSoC(システム・オン・チップ)を開発するときも制限がある。ARMの提供する内部バス技術では、キャッシュ同一性を保てるSoC内デバイスの総数が決まっているからだ。多くのスマートフォン向けSoCで最大8コアにとどまっているのは、ARMコアのクラスター構成や内部バス技術の制限によるものだ。

 そこでARMが開発したのが、DynamIQだ。DynamIQの大きな特徴は、コア構成の柔軟性が高くなり、より効率的に使えるようになる点だ。

Cortex-Aシリーズのマルチコア化は、最大4コアで始まり、2クラスターを使うbig.LITTLEで最大8コアとなった。DynamIQ世代では、従来用途をカバーしつつ、サーバーなどの様々な用途に対応できるという。
Cortex-Aシリーズのマルチコア化は、最大4コアで始まり、2クラスターを使うbig.LITTLEで最大8コアとなった。DynamIQ世代では、従来用途をカバーしつつ、サーバーなどの様々な用途に対応できるという。
(出所:英アーム)
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