GPS端末を個人の車両に無断で取り付けて位置情報を追跡する「GPS捜査」について、最高裁判所は2017年3月15日、裁判所による令状があったとしても「実施するには新たな立法措置が望ましい」と、現行法上では事実上認めない判断を示した。

 ただし、個人が所有するスマートフォンのGPS位置情報を遠隔操作で抜き出す捜査については、今後も可能となる見通しだ。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社は、捜査機関へのスマホGPS位置情報の提供について、本誌の質問に「現在法令等に基づき対応を行っており、今後も同様に対応する」との見解を示した。

「車両へのGPS端末取り付け」は、令状の有無に関わらず実質封印に

 最高裁大法廷は3月15日、GPS端末を個人の車両に無断で取り付けるGPS捜査について、裁判所による検証許可状(検証令状)なしでは行う事はできないとの判断を示した。

 さらに、令状の発付に基づき行う場合であっても、プライバシーの過剰な侵害を抑制するため「憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい」とした。

 これにより、新たな立法措置が講じられるまでは、「ごく限られた極めて重大な犯罪」(判決の補足意見)を除き、GPS端末を取り付ける形でのGPS捜査は事実上できなくなった。

 一方、GPS捜査には別の手法もある。個人の所有物にGPS端末を取り付けるのではなく、個人が持つスマートフォンのGPS位置情報を取り出すというものだ。

 2011年、総務省の個人情報保護ガイドライン改正により、検証令状の発付を前提に、捜査機関は携帯電話事業者からGPS位置情報の提供を受けられることになった。この場合、携帯電話事業者が個人のスマートフォンを遠隔操作し、GPS位置情報をネットワーク経由で受け取ることになる。

 ただし、位置情報はプライバシー性の高い情報であることから、取得の際、スマートフォンにその旨を表示するなどして、ユーザーに知らせるという条件が付いていた。

 だが、この条件は「犯人に位置情報の取得を知られると、捜査に支障が出る」との理由で、2015年のガイドライン改正では削除された。これにより捜査機関は、ユーザーへの通知なしにGPS位置情報を抜き出せるようになった。

 この改正に基づき、2016年5月から携帯電話各社は、画面などに通知を表示せずGPS位置情報を取り出せる機能を一部のスマートフォンに実装している。どの端末が対応しているかについて、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクはいずれも「捜査にも影響がある」として公開していない。

スマートフォンからのGPS情報取得依頼には「今後も同様に対応」

 NTTドコモは、最高裁判決を受けた同制度への対応について「本件判決は、令状なしにGPS機器を取り付けること等の捜査を違法としたものと理解している。このため、捜査機関から裁判所の令状提出に基づき、位置情報取得要請があった場合はこれまで通り対応を行う予定」とした。

 KDDIは「引き続き、法令・ガイドラインに基づき適法・適正に対応する」、ソフトバンクも「現在法令等に基づき対応を行っており、今後も同様に対応する」と、従来からの対応を変えないとした。

 プライバシー法制に詳しい中央大学 総合政策学部 准教授の宮下紘氏は、「総務省ガイドラインの『裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得する』(26条3項)とした規定は、GPS捜査に関する具体的な立法なしに、令状請求の審査を担当する個々の裁判官の判断に委ねることを相当としない今回の大法廷判決の趣旨とは整合しないと考えている。総務省ガイドラインが、GPS捜査の『抜け道』になりかねない」と指摘している。