政府は2016年3月8日、省庁や独立行政法人を対象にした「行政機関個人情報保護法」などの改正案を国会に提出した。民間企業を対象にした個人情報保護法が2015年9月に改正・公布されたのに合わせて、行政機関などが保有する個人情報から「匿名加工情報(非識別加工情報)」を作成し、企業に提供して、「新たな産業の創出」などに役立てるのが狙いだ。ただ、国立病院などの医療データを加工して企業が活用できるようになるか、まだ不透明だ。

 行政機関個人情報保護法の改正案の柱は二つある()。一つは、行政機関などが保有する個人情報を加工して復元できないようにした「匿名加工情報(非識別加工情報)」を、企業に提供するための法的な枠組みを設けることだ。民間企業を対象にした改正個人情報保護法では、既に「匿名加工情報」が定義されている。

図●行政機関個人情報保護法等改正法案の概要(出所:総務省)
図●行政機関個人情報保護法等改正法案の概要(出所:総務省)
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 もう一つは、匿名加工情報(非識別加工情報)の取り扱いについて、個人のプライバシーを侵害しないように企業と行政機関などの双方に規律を課す仕組みの導入だ。個人情報保護委員会が省庁や企業を一元的に所管して、問題があれば、委員会は省庁にも勧告を行う。

 法案では、企業が行う手続きは以下の通りだ。行政機関が公表する個人情報ファイル簿をもとに、まず企業は行政機関に匿名加工情報(非識別加工情報)の作成を提案。行政機関が審査したうえで、提案企業などとの間で利用契約を締結。匿名加工情報(非識別加工情報)を作成して実費で提供する。

 改正個人情報保護法にある匿名加工情報は、いわゆる「ビッグデータ」を活用する名目で新設された、世界初の法的なデータの類型とされる。改正個人情報保護法では、特定の個人を識別できないように加工して、なおかつ個人情報を復元できないようにしたもの、と定義している。

 企業が個人情報を匿名加工情報にすれば、取得した際の利用目的にとらわれることなく利用できる。そのため例えば、IoT(Internet of Things)で自動的に収集した個人の移動履歴などのデータを匿名加工情報にすれば、本人の同意なく活用できると期待されている。この法的枠組みに、新たに行政機関などが保有する個人情報ファイルが加わることになる。

 ただし、行政機関個人情報保護法の改正案には、改正個人情報保護法にある「匿名加工情報」ではなく、「非識別加工情報」という新たな言葉が登場する。これについて改正案を提出した総務省は、「匿名加工情報と同じもの」(行政管理局)と説明する。

 あえて異なる名称にしたのは、行政機関個人情報保護法と個人情報保護法の間で「個人情報」の定義が異なるため、「匿名加工情報と差がないように、内閣法制局との議論で法制的に整理したもの」(同)という。総務省行政管理局は、今後の国会での議論に向けて分かりやすく説明したいとしている。

各省庁が対象情報を選定

 行政機関から匿名加工情報(非識別加工情報)を受け取った企業は、その中から個人を識別する行為が改正個人情報保護法によって禁止される。

 ただし行政機関が保有するどのような個人情報ファイルが、匿名加工情報(非識別加工情報)として企業に提供されるようになるかは未知数だ。所管する個人情報ファイルについて、改正案の要件に照らして対象情報を選定するのは、各省庁だからだ。