「行き先未定、でも往復6000マイルで旅行できます」――。日本航空(JAL)が始めたマイレージ交換の新プログラム「どこかにマイル」が好評だ。4つの行き先候補の「どこか」へ行ける特典航空券を予約し、後から確定した行き先を知るという斬新なシステムが実現した背景には、野村総合研究所(NRI)と当初から共同開発の体制を組んだことがあった。企画のスタート時点から二人三脚でサービスイメージを積み上げ、アジャイル開発で試行錯誤を繰り返して創り上げてきた。

どこかにマイルの企画・開発に共同で取り組んだ(左から)JALの馬場宗吾氏、NRIの新井朗氏、NRIデジタルの中村博之氏
どこかにマイルの企画・開発に共同で取り組んだ(左から)JALの馬場宗吾氏、NRIの新井朗氏、NRIデジタルの中村博之氏
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「イノベーションを起こしたい」JALのCIOがNRIに声がけ

 両社が最初にタッグを組んだのは2013年。JALの最高情報責任者(CIO)である石関佳志常務執行役員が2013年頃、NRIのシステムコンサルティング本部に声をかけた。「ITでイノベーションを起こしたいんです。ご協力いただけませんか」。

 2010年の経営破綻とそこからの再生を経験したJALは、ルーティンワークから脱して新たな取り組みに挑戦し、仮説と検証を繰り返すことを重視している。石関CIOが率いるIT企画本部も、ITを使った業務の改善や新たなサービスの実現を目指しており、社内だけでなくNRIなど外部の知見も取り入れようと考えたのだ。

 以来2社は、複数の新たな取り組みを展開している。例えば米グーグルが開発した眼鏡型端末「Google Glass」を使った整備業務の高度化の実証実験。ホノルル空港でGoogle Glassを装着した整備士が作業しつつ、その映像を東京へリアルタイムに伝送し、国内にいる整備士と作業の進め方を相談できるというものだ。

 他にも、米アップルの腕時計型端末「Apple Watch」を空港スタッフが装着して、発着スケジュールや搭乗口の変更、スーパーバイザーからの臨機応変な作業指示などの伝達に活用するという実証実験を展開。ソフトバンク系の仏アルデバランが開発する2足歩行型ロボット「NAO」を羽田空港で旅客の案内に活用する実証実験も手掛けた。

 さまざまな共同プロジェクトに取り組んできた両社が、新たに取り組んだのが「マイルの新たな活用方法の創出」というテーマである。JALのマイレージ会員になってマイルをためる人は今も増え続けている。マイレージ機能付きクレジットカード「JALカード」の会員数も300万人を超え、ポイントプログラムとしては国内有数の規模に成長した。マイルの発行済み残高も増え「マイル経済圏」が広がりを見せている。

 そうなると必要なのが、マイルを使う手段の拡充だ。「これまでもマイルをさまざまな商品やサービスへ交換できるようメニューを広げてきたが、航空を本業とする会社である以上、新規の航空需要を創出していかないと競争力が低下し、顧客に選ばれなくなる。マイルを特典航空券に交換するメニューの拡充が必要だと考えていた」。JAL 路線統括本部 マイレージ事業部の馬場宗吾氏はそう明かす。

 同じころNRIも同様の問題意識を持っており、国内旅行の需要創出を目指した研究を進めていたことから、両社のメンバーが「マイルを活用して新たな旅行の機会を創出する」ことを目的とした研究会を立ち上げた。2014年夏のことだ。「JALとはこれまでもITシステムの開発やコンサルティングなどで比較的頻繁に仕事をしてきたが、基本的にJALが発注者、NRIが受注者という立場だった。今回はそうではなく、純粋な共同開発だった」。NRI システムコンサルティング事業本部 IT刷新プロジェクト部の新井朗上級システムコンサルタントは振り返る。以来、月1~2回のペースで両社の混成チームが侃々諤々の議論を繰り返すことになる。