「浮気をするつもりはない。クルマ走行中の潜在的な危険を察知する技術を、NECが持つ人工知能(AI)を使って実用化できるよう、両社で力を合わせていきたい」。

 デンソーは2016年12月、NECと高度運転支援や自動運転、モノづくりなどの分野で協業すると発表した。冒頭のように話すのは、デンソー先進安全システム技術部の岸本正志 担当部長だ。デンソーは、自社で開発する運転支援や自動運転のシステムに、NECが開発を進めてきた危険予測技術を適用し、実用化を目指す。

デンソー 先進安全システム技術部の岸本正志担当部長(左)とアドバンストセーフティ事業部の鈴木知二 先進安全技術企画室長
デンソー 先進安全システム技術部の岸本正志担当部長(左)とアドバンストセーフティ事業部の鈴木知二 先進安全技術企画室長
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 運転支援や自動運転の実現には、AIを使ったシステムがリアルタイムに周囲の状況を判断して、アクセル、ハンドル、ブレーキの操作を制御する必要がある。車両に搭載したカメラやセンサーやなどが取得したデータを処理し、車両の運転操作を制御する。

 「これまでも、危険な運転状況を回避したり、衝突を避けたりする目的で車載のセンサーやカメラの開発を進めてきた」(岸本担当部長)。例えば、自動ブレーキシステムに使われるミリ波レーダーやカメラなどだ。トヨタ自動車が開発した自動ブレーキシステムに採用されている。

 これらのシステムが危険を予測するアルゴリズムは、主に人間の開発者が記述してきた。原則として、あらかじめ決められた条件に対して効果を発揮するものだ。「ある車両が一定の速度や加速度で近づいてきた場合に、何秒後に衝突するか、といった予測だ」(岸本担当部長)。

 しかし、高度な運転支援や自動運転を実現するためには、人間がルールを決めて記述する開発手法では限界があるという。「例えば、歩道から車道に飛び出してくる歩行者の動きの予測は、アルゴリズムとして記述しづらい」(岸本担当部長)。急に割り込んでくる車両の動きなどを予測するのパターンも難しいという。

 こうした従来手法では記述しづらいアルゴリズムを、今後は深層学習などのAI技術を使って記述させようというのがデンソーの狙いだ。そのためにNECが持つ技術を活用する。「運転支援や自動運転のシステムを開発するにあたって、予測しなければいけない場面のパターンはどんどん増える」(岸本担当部長)。人間の開発者が一つ一つ実証を重ね、ルールを記述するのは効率的でないと判断した。