2017年2月17日、韓国サムスン電子のイ・ジェヨン副会長が検察に身柄を拘束され、ソウル拘置所に収監された。韓国を代表する財閥企業のオーナーファミリーが拘置所行きとなったことに、韓国中が驚いた。イ会長は2月17日から最長20日間、拘置所にいながら捜査を受ける。そして捜査後、検察による起訴、裁判となる。

約43億円の贈賄容疑で捜査

 特別検事(朴槿恵大統領の友人で民間人のチェ・スンシルが国政に介入し、国家政策や予算を牛耳って不正蓄財した事件の捜査を担当)がイ・ジェヨン副会長を捜査しているのは、イ副会長が朴大統領に強要されたとはいえ、見返りを期待して433億ウォン(約43億円)相当の賄賂を提供したとみているからだ。特別検事によると、容疑を裏付ける証拠もそろっているという。

 この見返りとは、サムスン物産の会社経営権である。2015年、サムスングループ子会社同士(サムスン物産と第一毛織)が合併して、第一毛織の大株主だったイ副会長の株の持ち分を調整した。特別検事は、イ副会長が朴大統領に賄賂を渡し、朴大統領がサムスン物産の大株主である国民年金公団へ合併に賛成するよう指示してもらい、イ副会長がサムスングループの経営権を持てるよう(経営権を世襲できるよう)助けたとみている。

 国民年金公団は海外大手株主らが合併に反対する中、損失を知りながらイ副会長の肩を持った。その結果、「財閥ドットコム」(投資家向けに財閥ファミリーに関する情報や財閥の経営状況・株主変動といったをニュースを提供するサイト)の試算によると、国民年金公団の損失は5865億ウォン(約590億円)に上るという。

 特別検事は賄賂供与以外に、「特定経済犯罪加重処罰法」上の横領、「犯罪収益隠匿規制及び処罰等に関する法律」違反、財産の国外逃避、国会での偽証の容疑についても、イ副会長の捜査を進めている。

 特別検事は、イ副会長がサムスン電子の資金を横領して朴大統領側に賄賂を渡し、その賄賂を隠すため、朴大統領の友人チェ氏がドイツで経営した会社と偽の契約を作ったとみている。また、朴大統領側に賄賂を渡すためドイツに海外送金する過程で、法律を破ったとみている。韓国では年間5万ドル以上を海外に送金する場合、銀行に資金の使い道などを証明する書類を提出しないといけない。

 イ副会長の捜査は、朴槿恵大統領スキャンダル捜査の一環で行われた。イ副会長は特別検事の捜査に対し、朴大統領の強要で賄賂を渡したことを認めたという。特別検事はいよいよ、朴大統領を収賄の容疑で捜査しようとしている。

 市民団体の「参与連帯」は報道資料を発表し、イ副会長の逮捕について以下のように論評した。

 「イ副会長の身柄を拘束したことは特別な意味がある。韓国の財閥歴史上、サムスンは3代目経営世襲する間、重大な犯罪と不法行為をしてきたが、一度も総帥が拘束されたことはなかったからだ。サムスンは権力者に莫大な免罪符の対価を支払い、権力者はサムスンを徹底的に庇護した。そのおかげでサムスンは財界1位に巨大財閥になれた。イ副会長の身柄拘束は、とても常識的で正常な法の裁きであるが、やっと断罪のドアを開けたに過ぎない。ここで止まってはいけない。イ副会長らの犯罪を断罪することが正義を正すことであり、国の品格を正すことであり、国民のプライドを生き返らせることになる。非常識ばかりの非正常な社会を常識が通じる正常な社会にすることでもある。これを財閥改革のきっかけにし、大多数の国民と労働者にばかり犠牲を強要した経済構造を変える出発点にしないといけない」。