「ただWatsonを導入しただけでは、成果は得られない。徹底したビジネスプロセスの見直しが必要だった」。

 こう話すのは、富国生命保険 保険金部長の八田高氏だ。同社は2017年1月、保険の給付金などを支払う査定業務に日本IBMの「IBM Watson Explorer」を導入した。保険査定業務の自動化が狙いで、査定に必要な人員を3割減らすことに成功した。

富国生命保険 保険金部長の八田高氏
富国生命保険 保険金部長の八田高氏
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 富国生命が構築したのは「診断書査定自動コード化システム」である。給付金などの査定には、請求のために提出された診断書から、支払いを決定するために必要な情報を確認する必要がある。それらの一部工程を自動化する機能を搭載している。

 診断書査定自動コード化システムの仕組みは次の通り。まず診断書のテキストデータから、傷病名、手術名、入院退院日などのキーワードを抽出する。テキスト化されていない診断書は、外部業者に発注して、手入力でテキストデータに変換してもらう。

 抽出した傷病名や手術名は、同義だが複数の単語を使っている場合が多い。例えば「がん」「ガン」「癌」、「手術」「術」などである。これらを同義語として認識した後、機械学習を使って分類用に設けた「コード」に割り当てる。コードに自動分類すれば、人間の担当者が傷病名や手術名に従って診断書を分類する手間を減らせる。

 プロジェクトを開始したのは2015年1月。足かけ2年にわたる。「AIを導入して『めでたしめでたし』と効果が得られたわけではない。Watsonを業務に適用すると同時に、業務のやり方を大幅に変えた」。八田氏は2年間の取り組みを振り返る。

2017年に査定業務の人員が大量退職

 八田氏は「実は、人員を削減しなくてはならない締め切りは、プロジェクト開始前から決まっていた」と打ち明ける。