米マイクロソフトの「PowerPoint」を使った資料の作成に人工知能(AI)を生かす。そんな取り組みを富士通が現場で本格化させている。2017年11月に本格的な適用を開始し、2018年1月末時点では289のプロジェクトに展開している。先行して導入した現場では、資料作成に要する時間を1件当たり最大4時間以上減らせたケースも出ているという。

 そもそも、資料作成にAIをどう生かせるのか。どのような仕組みなのか。資料作成支援ツールの開発責任者である富士通の岡田伊策デジタルフロント事業本部(兼)サービステクノロジー本部先端技術統括部エグゼクティブエンジニアと、いち早くツールを導入した現場のリーダーであるERPソリューション事業本部第二ソリューション事業部第三ソリューション部に所属する櫛田宏紀氏に聞いた。

富士通の岡田伊策氏(写真左)と櫛田宏紀氏
富士通の岡田伊策氏(写真左)と櫛田宏紀氏
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プレゼンの素材をそろえるだけで5時間

 櫛田氏らのチームは、ERPパッケージの導入に伴う技術提案を担当する。競合他社とコンペになることも多く、ユーザー企業向けの提案書を頻繁に作成している。以前から、作成作業に多くの業務時間を取られることに悩んでいた。

 特に、提案書の作成の経験が浅いメンバーは時間がかかりやすかったという。「ベテランは1日あれば十分な分量の資料でも、経験が浅いメンバーでは丸2日がかりになってしまっていた」と櫛田氏は打ち明ける。提案書の提出期限が迫ると、残業して作成に追われるメンバーの姿が散見された。

 提案書の作成プロセスを大きく「シナリオを練る」「シナリオ展開に必要な素材を探す」「仕上げる」の3つに分けたとすると、経験の浅いメンバーとベテランで特に時間の差が付きやすかったのが、2つめの素材を探す工程である。「素材を短時間でそろえるには、以前に作成した資料をうまく流用する必要があるが、経験の浅いメンバーにはそれが難しい」(櫛田氏)。ベテランが2時間以内で完了するケースで、経験が浅いメンバーは5時間かかっていた。

 櫛田氏らのチームはパッケージソフトを使った案件を手掛けているため、ほかの案件で作成した提案資料を比較的流用しやすいといえる。それでも、流用する素材を見つけ出す作業は難しかった。というのも、特定のスライドを流用したいケースでも、「スライドが含まれるファイルを特定する」「ファイルに含まれる数十枚~100枚規模のスライドから、目的の1枚を探し出す」という2つの作業には時間がかかりやすい。見込み違いで目的のスライドを含まないファイルを開いて探してしまうと、膨大な時間を浪費する。

 ベテランであれば、「どんなタイトルを付けたか」「どのユーザーに提案したか」など、様々な要素を手掛かりにして目的のスライドを探り当てられる。こうした検索テクニックの有無が時間の差となって現れていた。

AIがスライドにメタタグを自動付与

 櫛田氏らのチームのような悩みを解決するために、岡田氏がAIによって目的のスライドを探し出しやすくするツールを開発した。社内での名称は「Ave-Chance(アベチャンス)」。プロトタイプの作成に深くかかわった社員の名前に由来するという。