富士通が携帯端末事業を投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに売却することを決めた。2018年1月31日に発表した。スマートフォンやタブレットを開発・販売する子会社と製造する子会社の株式の過半を2018年3月までに譲渡する。売却益が富士通の2018年3月期決算の最終利益を約300億円押し上げる見込みだ。

 「アローズ」や「らくらくスマートフォン」などの携帯端末を開発・販売する100%子会社、富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)の株式の70%をポラリスに売却する。兵庫県加東市の工場で携帯端末を製造する100%子会社の富士通周辺機については、携帯端末の事業を新会社「ジャパン・イーエム・ソリューションズ」に切り出したうえで株式の81%を売却する。2社はポラリスの傘下で成長を図り、5年程度でのIPO(新規株式公開)などを視野に入れる。FCNTは富士通ブランドで製品を開発・販売し、製造会社はFCNTや他の企業から製造業務を請け負う。

富士通周辺機の携帯端末工場(兵庫県加東市)
富士通周辺機の携帯端末工場(兵庫県加東市)
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 「2015年に経営方針として掲げたことを、時間がかかっても粛々とやっていく」。富士通の塚野英博副社長は2018年1月31日の会見でこう述べた。田中達也社長就任後の2015年10月、富士通はITサービス事業に集中する方針を示し、2020年ごろに営業利益率10%を達成する目標を掲げた。その一方で、パソコンや携帯端末、電子部品などは周辺事業と位置付け、新規の大規模投資はしないと決めた。

 IoT(インターネット・オブ・シングズ)の広がりや5G(第5世代移動通信システム)の実用化を考えれば、携帯端末を手がける企業にも成長の余地がある。スマホ以外にもスマートスピーカーや産業用IoT端末などに事業範囲を広げられるかもしれない。しかし、周辺事業と位置付けた事業に大きな投資をすると掲げた経営方針が揺らいでしまう。カーナビの富士通テン、インターネット接続サービスのニフティ、パソコンの富士通クライアントコンピューティングの売却に続き、携帯端末事業も売却して退路を断った。営業利益率10%の達成に向けた決意を貫いた。

 他の携帯端末メーカーなど事業会社との連携を模索した時期もあったが不調に終わり、2017年夏ごろから幅広く声をかけて交渉を進めた。「設計会社(FCNT)を独立した事業として成長させたい、工場ではより多くの物量を扱うようにしたいといった希望があった。ポラリスがそれを受け入れてくれたことが決め手だった」(塚野副社長)。富士通ブランドの商品提供を続けるために富士通が株式の一部を保有することや、工場などの雇用を維持することなどの条件も合致した。

富士通周辺機の工場はロボットや自動加工機を活用して自動化率を高めていることで知られる
富士通周辺機の工場はロボットや自動加工機を活用して自動化率を高めていることで知られる
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