写真●楽天ヨーロッパ銀行の銀行業務開始記念祝賀会で握手する楽天の穂坂雅之代表取締役副会長執行役員(左)とルクセンブルクのピエール・グラメーニヤ財務大臣(右)
写真●楽天ヨーロッパ銀行の銀行業務開始記念祝賀会で握手する楽天の穂坂雅之代表取締役副会長執行役員(左)とルクセンブルクのピエール・グラメーニヤ財務大臣(右)
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 楽天は2017年1月11日、ルクセンブルクに開業した楽天ヨーロッパ銀行(Rakuten Europe Bank)の商業銀行業務を本格的に開始したと発表した。まず、2010年に買収したフランスのPriceMinsterの加盟店向けに決済や預金、貸付サービスを開始し、順次、ドイツで展開する「Rakuten.de Shopping」の加盟店向けにも同様のサービスを展開していく見通しだ。

 楽天はルクセンブルクで2014年9月に決済事業の免許を取得し、翌2015年2月には銀行免許を取得した。過去、2014年6月に台湾金融監督管理委員会から台湾におけるクレジットカード発行免許を取得したことはあるが、海外でのフルバンクサービス免許を取得したのはルクセンブルクが初。商業銀行業務の開始に伴い開催された新サービス記念祝賀会に出席したルクセンブルクのピエール・グラメーニヤ財務大臣は「楽天はアジア、いや世界におけるFinTechのパイオニアだ」と楽天の開業を歓迎し、同国と楽天の蜜月ぶりをアピールした。

 EU(欧州連合)に加盟するルクセンブルクで銀行免許を取得したインパクトは大きい。EU域内でありとあらゆる金融サービスを展開できるためだ。

 銀行免許を付与したルクセンブルクと楽天の関係が始まったのは9年前。当時、EC(電子商取引)のグローバル展開を矢継ぎ早に進めようとしていた楽天は2008年3月、欧州拠点としてルクセンブルクに楽天ヨーロッパを設立。その後、2010年にフランス、2011年に英国とドイツ、2013年にオーストリアとスペイン、と欧州でのEC事業を急拡大していった。

 「EC」と「金融」は楽天の成長を支えてきた両輪だ。楽天スーパーポイントのポイントプログラムで繋がった「モノ」と「カネ」は「ヒト」を引き寄せ、楽天経済圏を急拡大させてきた。一般的にEC事業者として注目を集めがちな楽天だが、早い段階から着々と金融業への進出を進めてきた。

 2003年にDLJディレクトSFG証券を子会社化して2004年に商号を楽天証券に変更し、2009年にはイーバンク銀行を子会社化して2010年に商号を楽天銀行に変更した。急成長を続ける楽天カードの系譜をたどると2004年に子会社化したあおぞらカードに行き着く。2009年に子会社化したビットワレットによる電子マネー「Edy」は2012年、「楽天Edy」と名を変えた。

 FinTechの領域で注目を集めているのはモノの動きとカネの動きの融合だ。取引データを基に与信を判定してレンディングサービスに結びつけたり、逆にカネの動きを把握することで新たな消費を促進したりする動きが広がっている。早いタイミングからこの点に目をつけていた楽天に対し、グラメーニャ財務大臣が「FinTechのパイオニア」と称賛するのも分かる。

 ECと金融が織りなす強力な生態系を欧州でも構築しようと進めてきた楽天だが、想定していた通りには進まなかった。ECの立ち上がりに時間がかかり、撤退を余儀なくされたためだ。

 楽天は2016年6月、英国、スペイン、オーストリアで展開していたEC事業、そして拠点の閉鎖を発表。フランスとドイツの2拠点に集中的に投資する判断を決めた。

 フランスのPriceMinister、ドイツの「Rakuten.de」にとって、日本と同様にECと金融による相乗効果を期待できる楽天ヨーロッパ銀行の存在は大きい。

 だが、楽天は欧州では新たな挑戦に踏み切る考えだ。

 「欧州におけるコンテンツビジネスはしっかりと残している」。ルクセンブルクで商業銀行を営むメリットについて問いかけると、楽天の穂坂雅之代表取締役副会長執行役員は意味深な答えを返した。