安倍晋三首相を議長とする官民データ活用推進戦略会議は、行政サービスの100%デジタル化をうたうIT新戦略の基本方針を2017年12月22日に決定した。安倍首相は「戸籍や登記の証明書など電子申請にかかる紙の添付を一括して撤廃する」と宣言した。

 現状では4万3000種類以上に上る行政手続きのうち、オンライン化しているのは12%にすぎない。一部の手続きが紙の書類を求めているためだ。

 代表例が国籍や親族関係を証明する戸籍謄本・抄本である。住民は年金など社会保障の給付、旅券発行、婚姻や相続などの際に戸籍を置く市町村から紙の書類を取り寄せる必要がある。添付を求める手続きは年間4700万件に上る。

 戸籍情報システムをオンライン化できないのは、各市町村が個別にシステムを構築した結果、文字コードなどの互換性に欠けるからだ。1948年に戸籍法が施行されて70年。政府は難問の解決に向けて本腰を入れ始めた。

約6万文字の人名用漢字を国際規格化

 基本方針は100%デジタル化の達成に向け、戸籍情報システムのオンライン化と、BPR(業務プロセス改革)を通じた手続きの見直しを掲げる。

 法務省は親子関係や婚姻関係を抽出して個人単位で管理する「戸籍情報連携システム(仮称)」を構築し、マイナンバー制度などに基づき自治体や政府機関が参照できるようにする青写真を描く。大規模災害に備えて各市町村の戸籍情報を日次でバックアップする戸籍副本データ管理システムを基に構築する。同システムは2014年から運用しており、必要な改正戸籍法案を2019年の通常国会で提出する計画だ。

 戸籍のオンライン化に向けた地ならしも進む。情報処理推進機構(IPA)は2017年12月25日、戸籍などに使う漢字約6万字のISO(国際標準化機構)規格化を完了させたと発表した。市町村は戸籍情報連携システムの利用に必要な文字コードを組み込んだPCやサーバーを調達しやすくなる。

 これまで戸籍や住民基本台帳が電子化される一方、自治体やITベンダーがバラバラに設定した文字コードの統一は一向に進まず、文字の国際規格(ISO/Unicode)化も遅れていた。

 行政システムの文字コードが統一化、国際規格化できていないことの弊害は大きい。自治体が導入した戸籍や住民基本台帳のシステムは、ITベンダーごとに文字コード体系が異なるため、ITベンダーの乗り換えが困難なロックイン状態にある。「東日本大震災の際、他の自治体が応援のため持ち込んだPCが、被災した自治体のシステムでは文字コードの違いから使えない事態に直面した」と、IPA 技術本部 国際標準推進センターの田代秀一センター長は語る。