IFRS(国際会計基準)を既に適用している、または適用の決定を表明している日本企業は、2015年12月時点で117社ある。うち、東京証券取引所に正式に表明したのは96社で、21社は連結決算短信で意思を表明した。
金融庁が2015年4月に公表した「IFRS適用レポート」では、IFRS適用のメリットとして最も多くの企業が挙げていたのは「経営管理への寄与」だった(関連記事:システム対応期間は1年4カ月、金融庁がIFRS適用企業の実態を調査)。もちろん、これもあるだろうが、「のれんの非償却」により利益がかさ上げされること(表面的には「比較可能性」と言われている)がモチベーションの一つとなっているのは否めない事実である。
そこで今回は、現在IFRSを適用済みか、適用を決定している企業におけるのれんの状況を整理し、IFRS適用の狙いとの関連を推察してみる。
のれん純資産比率が100%超は6社
まず、117社から上場連結子会社30社を除外した87社を対象とした。連結子会社はあくまでも親会社の方針の下、IFRS適用を決定していると考えられ、単独の意思はないと判断した。
整理の軸として、一義的にのれんの純資産に対する比率を使うこととした。のれんの非償却に対する否定的な意見の一つとして、減損リスクに伴う経営の変動性(ボラティリティー)が論点になるためである。のれんの数値は、2015年12月以前に開示されている最新の決算短信ベースのものを主に使用した。
経営の変動性に関しては、のれんの償却費が損益に与える影響を分析することも有用だと思われる。ただ、損益そのものが決算期により大きくぶれるうえに、償却期間が必ずしも同等でないと考えられることから、損益に与える影響度合いは補完的な数値として位置づけた。
87社におけるのれん純資産比率は図のようになる。
のれん純資産比率が100%を超える企業、すなわち、のれんの減損の状況次第では債務超過に陥る可能性のある企業は6社ある。50~100%の企業が8社、40~50%が3社、30~40%の企業が9社、20~30%の企業が10社と続く。
のれんを全く持っていない企業は、わずか11社だった。東証全体の傾向に関する情報は持ち合わせていないが、この比率は東証全体の分布とはかなり異なると考える。
これ以降は、のれん純資産比率が比較的大きいと考えられる30%を超える比率の26社について分析していきたい。