ヒトをしのぐ人工知能とその未来

 小説家カレル・チャペックが1920年の戯曲で生み出した言葉「ロボット」。その語源は「労働」や「労働者」を意味するチェコ語の単語だという。ならばロボットが人間から仕事を奪っていくのは、ある意味当然の話かもしれない。

 しかしこれほど急激にSFの世界が現実になるとは、誰が予想しただろうか。今やロボットが車の運転や翻訳をしたり、チェスや将棋で人間を打ち負かしたりする時代だ。その背景に、人工知能研究の飛躍的な発展がある。なぜ技術が大幅に進歩したのか、その先にはどのような風景が広がっているのか。それを丁寧に解説しているのが本書だ。

 著者の松尾豊准教授は、人工知能研究に長年携わってきた人物。これまでの研究の歴史をひも解いたうえで、急速に進化する理由を、技術的内容にまでかみ砕いて説明する。

 そのキーワードが、米グーグルなど有力企業が熱心に取り組んでいる「ディープラーニング」である。松尾准教授はディープラーニングを「人工知能研究における50年来のブレークスルー」と評価し、人工知能の進化が新たな段階に入った可能性があることを説いている。

 いったいディープラーニングの何がすごいのか。1つはコンピューターが「特徴量」を作り出す点である。特徴量とは、データを分析する際に注目するポイントといえるものだ。「ある社員が有能かどうかを判断するのに、遅刻の回数に注目する」といった具合だ。