個人データ活用で交錯する不安と希望

 シェールガスが世界のエネルギー市場を揺るがしている。このガスはずっと地中に眠っていたが、頁岩けつがん(シェール)と呼ばれる硬い岩からなる地層にあり採掘は困難だった。ところが技術革新で十分な量を安価に採取できるようになったのだ。

 同じことがデータにも起きている。大量のデータを安価に集めて分析し、価値を引き出す技術の確立で、「データは新しい石油である」とささやかれるようになった。なかでも無限の価値を秘めると期待されるのが、パーソナルデータだ。

 本書ではパーソナルデータを取り巻く最新事情をまとめている。昔から個人情報には価値があり、名簿屋ビジネスなども続いてきたが、読むと事態の高度化を実感できる。

 例えばウエアラブル機器などの最新技術を活用することで、健康状態や運動の状況はもとより、フォークを口に運ぶ回数といった細かな情報や、さらには個人のDNA情報までデータ化することが可能になっている。得られたデータを「精錬」し、価値へと転換する技術も同様で、購買データから女性顧客の妊娠を把握する取り組みも出てきている。

 しかしシェールガスの採掘方法が、環境破壊につながると懸念されているように、パーソナルデータを取り巻く技術の進化も、消費者の不利益につながる可能性が指摘されている。それは単に「知らない人に自分のことを知られるのは気持ち悪い」というレベルではなく、知らないうちにECサイトの表示価格が変えられているなど、具体的なデメリットが現れつつあるという。