結城 浩(ゆうき ひろし)
著述家。1993年に出した「C言語プログラミングレッスン入門編」を皮切りに、プログラミングや数学の書籍を著す。主な著書に「数学ガール」シリーズ(2007年〜)や「プログラマの数学」(2005年)など。

著者に聞く

 最近は「数学ガール」など、数学系の本の著者と思われがちですが、元々はプログラマー出身で、初期の著作はプログラミング関係のものばかりでした。時期的にも内容的にも、2種類の著作をつなげるような位置に当たるのが、この「暗号技術入門」です。

 暗号技術入門を書くきっかけとなったのは、オライリー・ジャパンの「PGP──暗号メールと電子署名」という書籍です。約20年前にこれを読んで、世の中にはなんて面白いものがあるんだろうと思いました。鍵を公開しても構わないとか、それまでの常識からするとショッキングなわけです。その本の「公開鍵は看板にして貼り出してもいいし、新聞に広告を出して公開鍵を載せても構わない」という表現に非常に感動しました。

 それについて興味を持って調べたりしているうちに、いつの間にか本を書いていたといった感じです。並行してWebなどにPGPの暗号に関するクイズを出したり、自分で公開鍵を作って公開してみたりして楽しんでいました。

 昨年出た最新版ではビットコインの話も書いています。ビットコインまでくると暗号通信ではなく、暗号技術を組み合わせていかに役立つものを作り出すのか、という点が重要になります。この本では要素技術である公開鍵暗号や対称暗号、ハッシュ関数などの話をしておいて、こうした暗号技術をどう組み合わせてビットコインを実現するか、その大枠がわかるように説明しています。そうすると最近よく話題に上る「FinTech」でも、嘘と本当を見分けるリテラシーを身に付けられるのではないかと思います。

 もちろん個々の暗号技術についても、前の版から8年が経過しているので更新しています。しかし、「暗号学者の道具箱」という基本的な構造は、最初の版から変わっていません。そういうところに公開鍵暗号というアイデアのすばらしさがあるのではないかと思います。