人は組織の“歯車”にあらず、心あり

 組織はよく機械に例えられ、所属する人々は「歯車」などと形容される。しかしこの比喩はまったくの誤りだ。歯車は物理法則によって動くので、組み方を間違えさえしなければ、それが構成する機械は設計通りの機能を果たす。隣に配置された歯車が気に入らないから動かない、などということはないのだ。

 ところが人間の場合には、まさにそうした心理が組織の成果を大きく左右する。まったく同じ能力の人間を、まったく同じように配置した2つの組織があったとしても、まったく同じパフォーマンスが発揮されるということはない。組織を機械だと捉えていると、見えない部分で足元をすくわれることになる。

 本書はその見えない部分に目を向け、個人や組織の生産性を上げようという1冊だ。そこで道具となるのが「ポジティブ心理学」。生産性、レジリエンス(逆境を乗り越える力)、動機づけ、感情、強みの活用、チーム力学といった分野において、人間の心理がどのように動くのかを研究している。本書はその成果を実務でどう生かすかを検討している。

 例えば会議ひとつ取ってみても、それを心理面から見直してみることで、改善できる点は無数にある。ある研究によれば、日本の会社で会議に使われる時間は、業務全体の約15パーセントに相当するそうである。しかもこの割合は、会社の規模が大きくなるほど増える傾向にあった。これほど大きな割合を占める行為を改善できれば、生産性が大きく向上されることは間違いない。