争いと無縁な新たな“交渉学”を提言

 相手が提示してきた条件がこちらのものと大きな隔たりがある交渉に臨むところを想像してほしい。システム開発の予算や納期、不動産の売買、年俸交渉など何でも構わないが、わくわくする人は少ないはずだ。声高な主張や恫喝、駆け引きや騙し合いというのが、交渉の場に対する典型的なイメージだろう。

 ところが本書は、まさにタイトルの通り、交渉が創造的なプロセスであると訴える。そこで描かれる交渉は、敵と味方に分かれて争うというものではない。むしろお互いを一種のパートナーとして、合意に向けて協力を模索していく作業である。

 そのため本書は交渉を、議論における話術などのミクロな視点だけでなく、マクロな視点からも考察する。

 交渉が勝ち負けを争う、1回限りのゲームであれば、従来の交渉術のようにその場しのぎのテクニックで十分だ。しかし長期的な視野に立つプロセスでは、会合を重ねて相手を理解し、利害関係や価値観を踏まえて提案を修正することが欠かせない。それは従来の意味の交渉というより、企画立案のプロセスに近い。

 そのプロセスで本書が重視しているのは「交渉環境は変化するものである」という認識を持つことだ。

 これまでの交渉理論は、交渉環境が静的で、変化しないものであることを前提にしてきた。確かに1回の会合だけに注目すれば、お互いの目標や置かれている環境は、交渉を通じて一定であると仮定できるだろう。

 しかし実際には、利害関係は絶えず変化している。自分の利益すら、交渉を始めてみるまで明確には分からないことが多いと本書は指摘する。