複数社が名乗りを挙げ、去就が注目されていた米Yahoo!の買収が決着した。48億3000万ドル(約5100億円)を投じた米ベライゾン・コミュニケーションズが同社の中核事業を手に入れた。狙いはモバイル動画配信と広告事業の強化。本業の通信事業が伸び悩む中、新たな収益源として育てたい考えだ。

 米国最大手の通信事業者であるベライゾン・コミュニケーションズは7月25日、インターネット大手の米Yahoo!の中核事業(ニュースやメール、検索機能、ネット広告など)を48億3000万ドル(約5100億円)で買収すると発表した。ベライゾンは巨費を投じたこの買収によって、モバイル動画配信と広告事業を強化する狙いがある。

 Yahoo!の売却先が決まるまでには、かなり時間がかかった。候補としてベライゾンのほか、通信大手の米AT&T、メディア大手の米コムキャスト、投資ファンドの米ベインキャピタルなどが浮上していた。米マイクロソフトも検索エンジン「Bing」を強化するために参戦するとの憶測もあった。Yahoo!はスマートフォンへの対応が遅れ、業績も低迷しているが、これだけの企業が候補に挙がったということは、同社の中核事業にはまだ価値があるということだろう。

無料動画配信サービスに注力

 現在ベライゾンが最も注力しているのが、2015年10月に開始したスマホ向け無料動画配信サービス「go90」である(表1)。ライブやスポーツ、ドラマなど8000を超えるコンテンツを提供している。ターゲットはいわゆる若者層のミレニアル世代(2000年以降に20歳になった人たちの総称で現在20~37歳)。今のところ米国でのみ視聴が可能で、国外へは配信していない。

表1●米ベライゾンが提供中の無料動画配信サービス「go90」の概要
表1●米ベライゾンが提供中の無料動画配信サービス「go90」の概要
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 go90の特徴は、AT&Tや米T-モバイルUSなど競合他社のユーザーでも無料で視聴できること。これを可能にしているのが広告収入だ。このため同社はgo90をOTT(Over the Top)とは捉えず、ソーシャルメディアと位置付けている。

 しかもベライゾンユーザーなら通信費もかからない。ベライゾンは、自社ユーザーに対しては通信費を徴収するよりも、アクセスしてもらうことによる広告収入のほうで収益を上げていく狙いだろう。通信費が気になって、アクセスをちゅうちょされては、元も子もないからだ。

 ただしgo90の売上高は全体の3%程度にすぎず、知名度も高くない。ベライゾンとしては、go90の視聴機会を増やして広告の売上高を拡大するためには、コンテンツの充実と広告配信のノウハウがカギになる。そこで同社は、Yahoo!の持つポータルサイトのノウハウや集客力、広告配信ビジネスの強みに目を付けた。今回の買収により、一気にgo90の集客力と売上高の拡大、利益創出を目指したいところだろう。

 なおベライゾンは2015年6月に、ネット大手の米AOLを44億ドルで買収・合併した。この買収でAOLのコンテンツ配信と広告事業を取り込んだわけだが、これもgo90に向けた布石と言えそうだ。その後、ベライゾンはCDN(Content Delivery Network)プロバイダーの米エッジキャスト・ネットワークスや、米インテルのIPTV事業であるOncueを買収することで、高度な技術力を手に入れ、映像サービス提供の基盤を確立した。これらもgo90の提供につながっていった。