2012年10月に米国第3位(当時)の通信事業者であるスプリントを買収したソフトバンク。ただ、その後に画策した同第4位(当時)のT-モバイルUSの買収が頓挫したこともあり、業績不振から抜け出せないままでいる。これからソフトバンクはスプリントをどうしたいのか。今後を見通す。


 ソフトバンクの子会社である米スプリントの業績が依然として芳しくない。2014年10〜12月期決算(米国会計基準)では21億3000万ドルの減損損失を計上した。

 この結果について孫正義社長は2015年2月開催の決算説明会で「厳粛に受け止めている。スプリントは甘い状況ではない」とコメント。その後も大きく好転していない。またスプリントの売却について孫社長は「上場会社なのでめったなことは言えない」と明言を避けた。

まだ高い解約率、止まらない流出

 スプリントは米国の他の通信事業者に比べると、商品やサービス、料金プランの競争力が弱い。同社の新サービスの一つに、2015年4月に開始した携帯端末の宅配サービス「Sprint Direct 2 You」がある。店舗に出向かなくても、自宅やオフィスなどでスマートフォンやタブレット端末を新規購入または機種変更できるサービスだ。カンザスシティやシカゴ、マイアミ、ニューヨーク、ロサンゼルスといった競争が激しい都市で提供している。確かに手間や時間の節約にはなるだろう。しかしスプリントがこのサービスを始めたからといって、同社に乗り換えたり、新規に申し込んだりするユーザーはそれほど多くはないようだ。

 そもそも米国の消費者がスマートフォンやタブレット端末の購入を検討するとき、スプリントを一番に選ぼうとする人は極めて少ない。まず思い浮かぶのは、米国全土でカバレッジに強く知名度も高いAT&Tかベライゾンだろう。

 スプリントが買収を試みたT-モバイルUSは攻めの姿勢が目立つ。トップ自らが宣伝活動に積極的で、テレビやビルボードで過激な広告を展開。格安な料金のほか、他の事業者にはない「アンキャリア」戦略を前面に打ち出している。インパクトが強く、ユーザーの目にも止まりやすい。

 このような施策が功を奏し、2015年1月〜3月のポストペイドの純増数はT-モバイルUSが110万でトップだった(表1)。続いてベライゾンが56万、AT&Tが44万となり、スプリントは17万にとどまった。同期の解約率を見ても4社の中でスプリントが1.8%と圧倒的に高い。これからも流出の歯止めに向けた施策が必要となり、それには相応のコストがかかるだろう。

表1●米国の主な通信事業者の2015年第1四半期決算(カッコ内は前年同期比)
表1●米国の主な通信事業者の2015年第1四半期決算(カッコ内は前年同期比)
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迫る格安SIMのMVNO

 スプリントは最近、米国内のヒスパニック市場をターゲットにスペイン語のテレビ広告を大量に流してはいるものの、これが成功しているとは言い難い。実際に人気がある事業者は、格安なプランを訴求するMVNO(仮想移動通信事業者)のトラックフォン・ワイヤレスである。同社はメキシコの通信事業者であるアメリカ・モビルの子会社で、米国内のヒスパニック系移民にとっては馴染み深いブランドである。