KDDIとソフトバンクは、成長領域と思われる事業分野への出資を積極的に推進している。その背景と出資動向から、両社の戦略の方向性を分析する。

いずれも増収増益となった第1四半期決算

 KDDIとソフトバンクは2017年8月初旬、2018年3月期第1四半期の決算を発表した。

 KDDI(連結)は売上高1兆1,987億円(前年同期比6.0%増)、営業利益は2,814億円(同2.3%増)と増収増益となった。セグメント別では、収益の多くを占めるパーソナルセグメント(個人顧客向けモバイル・固定通信サービスの提供)は、売上高9,194億円(前年度比5.9%増)、セグメント利益2,220億円(同0.7%増)であった。電力小売販売原価や獲得増加に伴う販売手数料などが増加し、売上高は増加したものの、営業利益の伸びは鈍化している。

 ソフトバンク(連結)は売上高2兆1,861億円(前年同期比2.8%増)、営業利益4,793億円(同50.1%増)と増収増益であった。SVF事業(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)やスプリント事業、ヤフー事業が増益に貢献した。セグメント別では、収益の多くを占める国内通信事業(個人顧客・法人顧客向けモバイル・固定通信サービスの提供)は、売上高7,557億円(前年度比0.8%減)、セグメント利益は2,184億円(同8.6%減)と、売上高は横ばいであったが、大幅な減益となった。固定通信サービスとモバイル通信サービスのセット割による割引総額の増加や、モバイルデータ通信端末やPHSの契約者数の減少が主な減益要因だ。これには、NTT東西の光サービスの卸化「光コラボ」の開始や、MVNOの新興があり、顧客囲い込みと新規獲得による顧客基盤の確保が重要課題になっている背景がある。

両社とも契約者数の伸びはわずか

 収益源の多くを占める国内のモバイル通信サービス市場について、2017年6月末時点でKDDIのau契約者数は前年同期比2.4%減の2,477万と減少した。MVNO契約者数を含めたモバイルID数では2,655万(同1.1%増)と、かろうじて増加となった(KDDI 2018年3月期第1四半期決算資料)。

 ソフトバンクの移動通信サービス(主要回線、通信モジュールやPHSの契約者数を除く)の契約者数は、3,244万(同0.9%増)となった(ソフトバンク 2018年3月期第1四半期決算資料)。これには、ワイモバイルショップと積極的な広告宣伝で安価なサービスを訴求することで契約者数を伸ばしたセカンドブランド「ワイモバイル」が含まれている。

 両社ともに、月額料金の安さを訴求するセカンドブランドやMVNOサービスの契約者数を含めても、わずかな伸びにとどまる状況にある。

 収益源の中心となる国内モバイル通信サービスの契約者数の伸びが鈍化し、単価の低めのサービスに契約者が乗り換えを進める方向にあるなかで、両社は成長領域と思われる事業分野への出資を推進している。

10兆円規模のファンドを立ち上げたソフトバンク

 KDDIは2016年に、2016年度からの3年間で5,000億円のM&Aの投資枠を設定した。「au経済圏の最大化、グローバル事業の積極展開へ貢献する分野においてM&Aを考えている」(KDDI 2016年5月 決算発表)と、中期経営戦略として非通信領域とグローバル領域の拡大に向けた出資を進めていく方針を示した(図1)。

KDDIの中期目標
KDDIの中期目標
出所:KDDI(KDDI の中期目標、http://www.kddi.com/corporate/kddi/vision/)
[画像のクリックで拡大表示]

 ソフトバンクは従来、成長性の見込めるICTの新サービス分野(モバイル向けゲーム、EC、SNSなど)や、需要の多い北米、成長性の見込めるアジアなどの地域に投資を行ってきた。2017年に入り、新たにソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を立ち上げ、2018年3月期からこれを新規連結対象とした。

 ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、10兆円規模の大規模なベンチャーファンドであり、2017年5月に初回のクロージングを完了している。サウジアラビア王国のパブリック・インベストメント・ファンドに加え、アラブ首長国連邦・アブダビ首長国のムバダラ開発公社、Foxconn Technology Group、Qualcomm、およびシャープが出資者として参画しており、ソフトバンクの出資比率は全体の2割であるが、運用はソフトバンクが行っている。今回の決算では、株式取得済みの米半導体大手NVIDIAの評価益を中心とするセグメント利益1,052億円が増益に貢献した。

 次に、両社がどのような企業に出資して新たな収益源を獲得しようとしているのか、その出資動向を見ていく。