自動車業界のホットな話題であるコネクテッドカーや自動運転車。例えばスウェーデンのボルボやドイツのBMWは4G LTEを利用して、“コネクティビティー”を実現する車車間通信に取り組んでいる。ただし現状では通信事業者の存在感は極めて薄い。今後に向けた課題を探る。

 コネクテッドカーや自動運転車について議論するカンファンレンス「Future Connected Cars USA」が2016年5月10〜12日にかけて、米国カリフォルニア州サンタクララで開催された。通常、このような自動車業界の集まりにおいて語られる“コネクティビティー”の位置付けは「あって当たり前の環境」。つまりコネクテッドカーを実現するための要素の一つにすぎない。言い換えれば、この業界における通信事業者の存在感は無きに等しい。それが今回のカンファレンスでは、車車間(V2V:Vehicle to Vehicle)通信が話題となり、米クアルコムが提唱する「LTE V2X」に注目が集まった。

5GとLTE Direct

 車車間通信に関する実証実験は2015年にドイツの公道で行われた。想定するシーンは、走行中のクルマが車線を変更する際に、周辺のクルマの位置やスピードを把握して危険を回避するというもの。具体的には、ドイツテレコムのLTE(Long Term Evolution)ネットワークとノキア・ネットワークスのモバイルエッジコンピューティング技術「Liquid Applications Server」を用いて、LTE基地局と車両間のリアルタイム通信を試みた。

 自動車向けの無線通信に要求される遅延時間は約1ミリ秒とされる。自動車専用として開発された狭帯域無線通信技術のDSRC(Dedicated Short Range Communications)の遅延時間はこの条件を満たす1ミリ秒と言われている。

 今回の実験では、通常ならエンドツーエンドで100ミリ秒以上かかるところを、約20ミリ秒に抑えることができた。大幅な改善と言えるが、遅延時間の要求条件を満たすまでには至らなかった。

 恐らくこの実証実験は、最終的に5G(第5世代移動通信システム)の活用を見据えたものだろう。5Gは「超高速」「超大容量」「超低遅延」の実現を目指し、遅延は1ミリ秒以下が目標とされている。既に遅延を2ミリ秒以下に抑える実験に成功したとの報道もある。

 そのような中、クアルコムが提唱するLTE V2Vは、LTEによる端末間通信「LTE Direct」をベースに車車間通信を実現するものだ。

 LTE Directは、500メートル以内の近接したネットワーク内に存在するLTE Direct対応デバイスを検出し、特定の周波数帯を用いてデバイス間で通信させることができる。通信事業者のネットワークには依存しない。このため費用を抑えながら高速通信を可能にするとしている。