写真●米Sprintの携帯電話販売店
写真●米Sprintの携帯電話販売店
[画像のクリックで拡大表示]

 2014年8月6日、ソフトバンクの傘下で米携帯電話3位のSprintが、同4位の米T-Mobile USの買収に向けた交渉を中断することが明らかになった(関連記事:Sprint、T-Mobile買収計画を白紙に、CEO交代を発表写真)。

 日本経済新聞の報道によると、ソフトバンク幹部は同日、「数カ月間にわたって話し合いを進めてきたが、規制当局の承認を得る見通しが立たず、いったん交渉を中断する」とコメントしている。

ソフトバンクの思惑通りにいかない米国通信市場

 今回、SprintがT-Mobile USの買収を白紙とした背景には以下の2点が大きいだろう。

(1)好調なT-Mobile USと買収合意を認めたくない当局

 ソフトバンク(Sprint)は、業界4位のT-Mobile US買収によって、「2強2弱」だった米国の通信市場で「3強」の一翼を担い、米国市場で本格的に戦うことを想定していた。そして孫正義社長は、ロビー活動の中で、「米国の通信料金が高い」「接続が悪い」「キャリア間の価格競争が機能していない」ことを強調していた。

 ところが、買収対象のT-Mobile USによる2013年春からのiPhone発売と「アンキャリア戦略」が功を奏した。アンキャリア戦略とは、T-Mobile USに乗り換えた顧客の解約料を全額負担したり、2年間のうちに3回までスマートフォンの買い替えが可能にしたり、下取りに出すとキャッシュバックに応じたりするなど、従来のキャリアらしくない施策を展開することだ。2014年6月に開始した「アンキャリア5.0」では、「iPhone 5S」を7日間無料で貸し出してT-Mobile USのネットワークを試してもらうサービス「Test Drive」を開始した。

 ここまでは新規顧客獲得のための施策だったが、2014年6月に提供を始めた「アンキャリア6.0」では、T-Mobile USの既存顧客に米国の主要ストリーミングサービスの利用パケットを無料とするサービス「Music Freedom」を提供した。ソフトバンクがSprintを通じて米国でやりたかったであろう新サービスを、T-Mobile USが市場に投入していった。

 こうした効果でT-Mobile USの純増数も増加している(表1表2)。米国の通信市場で競争が働いていることが、目に見えてわかるのである。

表1●2014年第1四半期の米国通信事業者の決算比較
 売上高最終損益純増数(携帯電話・ポストペイドのみ)
Verizon308億1800万ドル(5%増)59億8600万ドル53万9000件
AT&T324億7600万ドル(4%増)36億5200万ドル62万5000件
Sprint88億7500万ドル(0.9%増)▲1億5100万ドル▲33万3000件
T-Mobile US68億7500万ドル(47%増)▲1億5100万ドル132万3000件
表2●2014年第2四半期の米国通信事業者の決算比較
 売上高最終損益純増数(携帯電話・ポストペイドのみ)
Verizon314億8000万ドル(5.7%増)42億1000万ドル144万1000件
AT&T326億ドル(1.6%増)35億4700ドル102万6000件
Sprint87億8900万ドル(1%減)2300万ドル▲24万5000件
T-Mobile US71億9000万ドル(15%増)3億9100万ドル90万8000件