米国の通信事業者VerizonのCEOであるLowell McAdam氏はComcastやディズニー、CBSなどCATVやコンテンツホルダー、メディアとの合併について前向きに検討していると、ブルームバーグが2017年4月18日に伝えた。

 McAdam CEOはComcastのBrian Roberts CEOから「両社の事業統合の話を持ちかけられれば対応する」とのこと、さらに他社との事業統合などについても協議していくと、やる気満々のようだ。McAdam CEOの発言について、合併候補として名前の挙がった3社はコメントをしていないが、3社の株価は上昇したことから市場での期待感がうかがえる。

 VerizonだけでなくAT&Tは既にDirecTVを買収し、同社のコンテンツを配信。さらにタイムワーナーの買収も発表している。このように米国で通信事業者がメディア企業に秋波を送っているようだが、通信事業者がメディア企業と事業統合することにメリットはあるのだろうか。

 米国で通信事業者が提供する動画配信サービスの現状、ライバルとなるNetflix、Hulu、Amazon Primeなどの状況、動画コンテンツに対する通信事業者のあるべき姿について解説する。

携帯電話契約数が初の純減となったVerizon

 CEOのLowell McAdam氏がCATVなどメディア企業との事業統合を示唆する背景には、Verizonとしてもいつまでも従来の携帯電話事業の収入に依存できない状況がある。

表1●米国主要通信事業者の2017年1〜3月期業績
表1●米国主要通信事業者の2017年1〜3月期業績
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 2017年4月20日に発表された2017年第1四半期(1〜3月期)の決算によると、Verizonのポストペイの契約者数が30万7000件の減少、プリペイドを含めると32万4000件の純減となった。特に3位のT-Mobile USに多くの顧客が流出しているようだ。Verizonは2017年2月には対抗策として「使い放題プラン」を約6年ぶりに復活させており、そのことで契約件数は純増に転じていると述べていたが、一度流出してしまった顧客を取り戻すのは容易なことではない。

 第1四半期の売上高も前年同期比7%減の298億1400万ドル(約3兆2500億円)、純利益も同20%減の34億5000万ドル(約3760億円)と四半期連続の減収減益と非常に厳しい状況である。稼ぎ頭の携帯電話事業の成長に陰りが出ており、今後好転の兆しが見えにくいことから、Verizonとしても新たな収益源の確保が必要となる。そこで目を付けたのがメディア企業との事業統合なのだろう。

米国最大の有料テレビ企業となったライバルAT&T

 Verizonがメディア企業との事業統合に向う背景には2つある。1つは、ライバルのAT&Tが2015年に完了した衛星放送大手DirecTVの買収の後、2016年11月から新たなストリーミングサービスとして「DIRECTV NOW」を開始したことだ。月額35ドルで100チャンネル以上の番組をストリーミングで視聴可能としている。

表2●米国通信事業者による動画・音楽などへの取り組み
表2●米国通信事業者による動画・音楽などへの取り組み
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 DirecTV買収後のAT&Tは、米国最大の有料テレビ企業となり、DirecTVを基軸に新たな動画サービスを展開している。さらに2016年10月にはタイムワーナーの買収も発表。今後、買収の承認待ちがしばらくは続くが、タイムワーナーのコンテンツがさらに加わることでAT&Tのメディア戦略は一層強化される。

 AT&TはDirecTVやタイムワーナーの買収に当たって、「モバイルの将来は動画、動画の将来はモバイル」とコメントし、モバイルでの動画配信に注力していく姿勢を見せている。さらにAT&Tは「全米でCATV局に対抗できる初の通信事業者になる」と宣言した。だがAT&Tが2017年4月25日に発表した2017年第1四半期(1〜3月期)の決算では、売上高は前年同期比3%減の393億6500万ドル(約4兆円)、純利益は同9%減の34億6900万ドル(約3850億円)だった。

 携帯電話やCATVの加入者は減少していることから、決してAT&TのDirecTV事業も平坦ではないようだ。このようにライバルAT&Tの状況も決して順調ではないにせよ、Verizonとしては自社にメディアでの囲い込みができる事業がないため、何らかのメディア事業でポートフォリオの拡大に迫られている。