総務省の「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」は一部報道で携帯電話料金の値下げというニュアンスで報じられ、大きな議論を巻き起こした。論点の一つである「通信料金と端末価格の分離」について、この1年で大きく変わった米国市場の最新動向を紹介する。

 タスクフォースでの論点の一つに「通信料金と端末価格の分離」がある。実はこの1年で端末販売のトレンドが大きく変わった市場が海外にある。米国だ。米国の大手通信事業者4社は、2年契約を前提とした販売モデル、いわゆる「2年縛り」から脱却した。

この1年で大きく変わった米国市場

 きっかけは、T-モバイルUSの「アンキャリア(Uncarrier)戦略」にある。同社は2015年第3四半期の決算発表時に、契約者数で米スプリントを追い越して第3位に浮上した。上位2社が「2年契約」による囲い込みを進める中、T-モバイルUSは長期契約の廃止を宣言。さらに、競合他社からT-モバイルUSへ乗り換える契約者には途中解約費相当額を負担するなどしてきた。このように既存大手を抵抗勢力であるかのように位置付け、自らは消費者の味方として振る舞うさまは、ソフトバンクが従来長く採用してきたマーケティング戦略とイメージがかぶる。

長期の縛りは端末の定額利用で

 T-モバイルUSの躍進につながった主な施策は2つある。一つはスマートフォンの「早期買い替え」プログラムだ。同社が導入した「JUMP!」は、月20ドルを支払えば年に2回、端末を追加費用なしで変更できるというオプションである。「新機種が続々市場投入される中、購入した端末を切り替えたいが我慢している」といった契約者をターゲットとする。

 もう一つは「定額利用方式」プログラムだ。この1年で米国各社が端末の定額利用方式を導入した。T-モバイルUSとスプリントは端末のリースも始めた。料金設定は、T-モバイルUSが月5ドル、スプリントに至っては月1ドルからである。通常、この定額利用は契約期間内で一定期間(スプリントは21カ月、T-モバイルUSは18カ月)が経過すれば端末を新機種に交換できる。利用者にとってメリットを感じやすいものとなっているが、契約期間は長期に設定されている。米AT&Tの場合も20カ月と長い。通信事業者は通信サービスでの長期契約から脱却するも、端末提供プログラムで顧客との関係を長期に維持する仕組みとなっている。

 なお、リースプログラムは端末販売をサービス化したものと考えられる。その意味では、通信事業者が端末の販売代理店であることを生かした施策と言える。

 こうしたプログラムの導入によって、端末の買い替えサイクルが短期化している。それを受けて、米国通信事業者大手4社はいずれも、端末販売収入がこの1年で増えている。2014年度で最も増分が大きかったAT&Tの場合、端末販売は46億ドル(約5500億円)の増収だった。

 通信事業者のほかにも、米アップルは直販ルートでの定額提供プログラム「iPhone Upgrade Program」を米国で開始した(図1)。価格設定は月32ドルから(端末により異なる)。本体価格を24回払いした場合とほぼ同額での定額提供であるため割安感はそれほどではない。ただ、SIMロックフリーの直販端末に安価な料金プランのSIMを挿入して使うという利用者の行動をより身近にしているようだ。

図1●米アップルが開始した直販ルートでの定額提供プログラム「iPhone Upgrade Program」
図1●米アップルが開始した直販ルートでの定額提供プログラム「iPhone Upgrade Program」
出所:米アップルのWebサイト(http://www.apple.com/shop/iphone/iphone-upgrade-program)
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