SIM(Subscriber Identity Module)の一形態である「eSIM」がコンシューマー製品に搭載され始めたのが2017年であった。その意味で、2017年は「eSIM元年」であったと言えるだろう。2017年9月に発売された「Apple Watch Series 3」は、ラインアップにモバイル通信対応の「GPS+セルラーモデル」が加わったが、このモデルにはeSIMが採用されている。それ以前に日本ではNTTドコモが2017年5月に発売した「dTab Compact d-01J」にeSIMが搭載されている。

 本稿では、eSIMの普及が今後本格化した場合、通信業界や通信市場にどのような影響を及ぼし得るのかについて考察してみたい。

プロファイルを遠隔で書き込める

 eSIMの「e」とは「embedded」の略である。埋め込み型SIMとも呼ばれている。ソフトウェアとしてデバイスに搭載する「ソフトウェアSIM」を想像する向きもあるかもしれないが、eSIMは物理SIMである。

 eSIMには、大きく2つの形状がある。1つは、スマートフォンに挿入するようなICチップ型である。これは、既存のSIMスロットに挿入して使うため、端末をeSIM対応させるために新規に設計し直したり、仕様を大きく変更したりしなくて済むことから、デバイスメーカーとしては既存の生産ラインを活用でき、開発コストも抑えやすい。

 もう1つは、数ミリ四方の埋め込み型(はんだ付け型)のものである。これは、eSIMの機能としてはICカード型と共通であるが、デバイス本体にはんだ付けするためデバイスとの物理的な接点がなく振動に強い。工場や作業現場など、耐振動性能が求められる環境には最適だ。

eSIMの形状
eSIMの形状
[画像のクリックで拡大表示]

 埋め込み型であるため、SIMの差し替えをしない利用シーンを想定している。SIMの差し替えは、契約する通信事業者を変更するために行う。差し替えをしないeSIMの本質的な特徴は、遠隔で契約事業者情報(プロファイル)を書き換えられることだ。

 後者の埋め込み型だけを指してeSIMと呼ぶことがある。欧州の通信規格の標準化団体ETSIはもともと、はんだ付けするSIMをeSIMとして規格化を進めていたが、後述する「Apple SIM」の登場により携帯電話事業者の業界団体であるGSMAが遠隔書き込み仕様の規格化を推進することとなり、その仕様がeSIMと呼ばれるようになったという経緯がある。

 従って、eSIMという言葉が形状を指すのか遠隔書き込み対応を指すのかは文脈次第な面があるが、昨今ではICチップ型と埋め込み型の両方を含む、遠隔書き込み対応のSIMをeSIMとして扱っているケースが多いようだ。

eSIMの規格化主体と形状
eSIMの規格化主体と形状
出所:情総研
[画像のクリックで拡大表示]