本稿を執筆している時、筆者のテレビはリオデジャネイロ五輪の男子マラソン開始シーンを映し出している。NHK総合の放送をハイビジョンテレビで見ているが、2mの視聴距離だと中継映像は綺麗とはいいがたい。もちろん、映像素材はOBS(オリンピック放送機構)の制作であり品質監理や、選手のアップといったカット割りつけ、音声収録などもOBSである。

 今回の五輪中継ではNHKと提携し開会と閉会式、水泳、柔道、体操などの競技でSHV(スーパーハイビジョン)制作を行った。8月1日からは、BS-17chを利用し、SHVの試験放送もスタートした。全国各地でPV(パブリックビューイング)も開催された。

 今年のオリンピック中継では、NHKがネットによる番組の放送との同時配信を含む形で、ネット配信に本格的に取り組んだ。ロンドンオリンピックに対してライブ配信時間を倍増するなど充実させるとともに、ネットの同時配信だけでなく、4K配信の実験も含む新たな取り組みを実施した。

 通信回線の太さの順で視聴者のNHK五輪中継番組に接することができるメディアを例示してみよう。スマートフォンにインストールしたNHKスポーツアプリを立ち上げると、NHKがインターネット配信実験を行っている総合テレビとの同時配信によるマラソン映像にも接した。KDDIのLTE回線を利用したが、途切れることもなく快適だった。長時間視聴するとデータ容量が気になってしまうが、混雑していない山手線の車内視聴でも途切れることはなかった。

 500kbps程度で最小の帯域なら、スマートフォンとアプリによる小型画面の手軽な試合鑑賞となる。こちらが便利な点は、VOD形式なら早送りと巻戻しが極めて素早く可能である点だ。

 筆者がよく行く中野区野方のファミレスでは、窓際ではスマホでフルセグを楽しめるが、混んでいる時に座る奥の席ではワンセグすら映らない。店内で無料提供されている無線LAN回線との組み合わせなら、いつでも五輪中継のVOD映像や、時間によってはライブ番組を視聴でき、極めて快適であった。また日本選手が出ていなければ中継されない、ハンドボールやバレーボールの決勝戦なども生中継視聴できたことも嬉しかった。ちなみに、民放サイドのgorin.jpアプリも試した。こちらは番組の再生前に広告を再生する必要があった。

 そして1Mbps程度の回線であれば、パソコンならNHKオンラインのWebサイトから、そこそこの画質でテレビ的な鑑賞が可能だった。筆者はWindows10で13インチのノート型パソコンで鑑賞したが、コンサルティング先の事務所にあるLAN回線だと20分に1度くらいの途切れもあった。

 そして、筆者はシャープ製テレビ「AQUOS LC-52XL10」でNHK Hybridcastによりマラソン中継の巻戻し視聴も体験した。回線はNTTのADSLを用いたが一時間程、途切れることもなく10倍の早戻しで番組開始時に戻ったり、任意の時間に飛んでみたりしてトリックプレイを楽しめた。ただし、アクセスラインはあえてモデムと有線でLAN接続した。安定的に10Mbps程度の回線帯域が必要であるからだ。

 さらに、NHKはこの五輪で実験的ではあるが通信回線を経由して、4K映像で五輪番組を配信する試みも実施した。Hybridcastによる4Kライブストリーミングおよび4K-VODと、NHKオンデマンドによる4K VODである。日常、こういった視聴体験で協力いただいているシャープの担当者から、4K Hybridcast対応機による4Kライブストリーミングおよび4K-VODと、「COCORO VIDEO」(ビデオマーケット開発)アプリ内蔵IPTV-STBと4K AQUOSの組み合わせによる4K VOD視聴の様子を見せてもらった。良好に再生できたようだった。

 回線速度を確保すればOBSがNHKと提携し制作した8K映像を、4Kにダウンコンバートした極めて高画質なコンテンツを鑑賞できるところまで五輪映像は進歩していた。米国ではこの手法でDirecTVなどが4K映像で配信した。OBSの高画質映像素材はNHKの8K素材制作パワーの貢献の賜物であることに異論を唱えるものはいないだろう。

 なお、NHKオンデマンドによる4K VODは、ビデオマーケットのほか、J:COMオンデマンド、ひかりTV、アクトビラ、milplusによっても提供された。Hybridcastによる4Kライブストリーミングおよび4K-VODは、ひかりTVのSTB経由でも提供された。