「『72時間ホンネテレビ』の視聴者数は当社のデータ上、控えめに見積もっても500万人を超えていた」

 サイバーエージェントの藤田晋社長は、2017年12月15日に東京・渋谷で開催した株主総会でこう明かした。72時間ホンネテレビとは、テレビ朝日との共同出資会社AbemaTV(東京都渋谷区)が運営するネット動画サイト「AbemaTV」で11月2日午後9時~5日の午後9時にかけて放送された番組だ。元SMAPの3人が出演したことで話題を呼んだ。

 同番組について、株主から具体的な視聴者数について質問が飛ぶと、藤田氏は重い口を開き、ついに番組の視聴者数を口にした。藤田氏が個別の番組の視聴者数について言及したのは、2016年4月のAbemaTVの開局以来初めてのこと。「(個別の番組の視聴者数は)今後も公開しない考え」(サイバーエージェント)と秘密主義を貫く同社にとって、異例とも言える措置だ。

 サイバーエージェントはなぜ、個別の番組の数字の公開に踏み切ったのか。実は公開のおよそ2週間前、メディアや広告関係者の間ではこんな憶測が飛び交っていた。「サイバーエージェントが都合の悪い数字をもみ消すために、圧力をかけたのではないか」。もみ消しの対象とされているのは、テレビの視聴率調査などを手がけるビデオリサーチ(東京千代田区)が11月28日に発表した、72時間ホンネテレビに関する調査だ。同調査では、番組の視聴者数は約207万人だったと推定していた。

 AbemaTVは番組放送後、「本番組の総視聴数は過去最高視聴数となる7400万超を記録」と発表している。7400万と言えば、国民の半数以上に当たる。それが本当ならネットの番組が、テレビと比肩する存在となったことを示す快挙と言える。ところがこの数字にはからくりがある。7400万は視聴者数ではなく、延べで視聴された回数を表している。視聴者がスマホのアプリで視聴中に届いた「LINE」のメッセージに返信して、再び視聴を再開する。これだけで数字は1つ増える。そのため、実際に番組を視聴した人数よりも大幅に多くカウントされている。こうした数値の公開は、実態よりも媒体力を大きく見せるため問題視する声も大きい。「仮にテレビ番組でザッピングの度に視聴数をカウントした場合、その数は数億に達するだろう」と業界関係者は指摘する。

ビデオリサーチは「72時間ホンネテレビ」の視聴者数が約207万人だったとする自社調査を発表
ビデオリサーチは「72時間ホンネテレビ」の視聴者数が約207万人だったとする自社調査を発表
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AbemaTVは「72時間ホンネテレビ」の放送後に視聴数が7400万だったと発表
AbemaTVは「72時間ホンネテレビ」の放送後に視聴数が7400万だったと発表
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 これでは、AbemaTVの正しい媒体力は分からない。AbemaTVに出稿する主企業や広告代理店から、指標となる数値を求める声が高まっていた。こうした背景から、ビデオリサーチは調査結果の公表に踏み切ったようだ。しかし、先述の通り数値の取得方法の違いを鑑みても、ビデオリサーチとサイバーエージェントの両者が発表した数字の差はあまりにも大きすぎた。ビデオリサーチはテレビの視聴率調査を50年以上も手掛けている老舗の調査会社だけに、調査結果に対する信頼性も高い。そのため大きな波紋を呼んだ。