iPhoneの代名詞となった“白いiPhone”は、東京の下町にある会社が作った白いインクがなければ存在しなかったかもしれない
iPhoneの代名詞となった“白いiPhone”は、東京の下町にある会社が作った白いインクがなければ存在しなかったかもしれない
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 iPhoneと聞いて多くの人が連想する“白いiPhone”は、東京の下町の会社が作ったインクがなければ生まれなかった――。

 アップルが2016年8月に公開した報告書で「iPhoneのディスプレイを取り囲む枠の一部を製造した」と紹介された帝国インキ製造(東京都荒川区)が、iPhoneのホワイトモデルで使われるインクを開発・製造したことが明かされた。アップルが東京の下町にある老舗のインクメーカーに目を付けた理由や、実際にアップルとどのように仕事を進めていったのかを取材した。

知らぬ間に目を付け、ひっそりと連絡してきたアップル

帝国インキ製造の澤登信成社長。自社の製品が世界中のiPhoneで使われていることに、誇りと驚きを感じているという
帝国インキ製造の澤登信成社長。自社の製品が世界中のiPhoneで使われていることに、誇りと驚きを感じているという
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 帝国インキ製造は、家電製品のパネルや自動車のメーター、オーディオ機器のフロントパネルなど、工業製品の印刷に使われるインクを中心に開発・製造している会社だ。

 アップルから前触れもなく「こういうインクはありませんか」と問い合わせが来たのは2007年のこと。問い合わせといっても、会社宛てに電話で直接連絡が来たわけではなく、Webサイトの問い合わせフォーム経由でひっそりと連絡が届いたそう。帝国インキ製造の澤登信成社長は「アップルという会社はもちろん知っていたが、そんな世界的な企業が私どもの会社にコンタクトを取ってくるはずがない。誰かがイタズラして送ってきたのではないかと勘ぐった」と話す。

 とはいえ、そのまま無視するわけにはいかないので、関連部署に連絡して問い合わせに対してはちゃんと回答したそう。ほどなくアップルからレスポンスがあり、「返答の内容がしっかりしていたので、問い合わせがアップルからの正式なものだと確信した」と澤登社長は振り返る。

 アップルが帝国インキ製造を“一本釣り”した理由は明らかにされていない。ただ、帝国インキ製造は早くから環境に対しての意識が高く、1992年には有害物質を含まず環境負荷が少ない水性インクを他社に先駆けて開発した。環境保護に積極的に取り組むアップルが帝国インキ製造の技術力の高さを評価し、コンタクトを取ったのではないかと考えられる。