ITや業務改革などのプロジェクトでは、利害の異なるさまざまなステークホルダーが関与し、互いの意見を調整しながらうまく進めていく必要があるため、プロジェクトリーダーは、ステークホルダーの間に立ち、さまざまな困難な場面に直面します。

 特に深刻なのが、対立やムチャブリです。これらをいかに解決していくか、悩んでいる人は少なくないでしょう。

 ナレッジサイン代表取締役の吉岡英幸氏が、悩めるプロジェクトリーダーにとって心強いテクニックを紹介します。


【相談1】突然の仕様変更でムチャブリされた

ITベンダーでシステムエンジニアとして働いていますが、文書管理システムの開発プロジェクトで顧客企業から無茶な要求をされて困っています。既に仕様を確定して実装に入っているのですが、「文書の分類項目を一つ増やしたい」といわれてしまいました。データベース設計からやり直しのため大きな手戻りとなるのですが、相手は「項目一つ増やすぐらい簡単だろう」と言って、無理に要求を押し通そうとします。

 ムチャブリが発生する状況には2通りあります。一つは、無茶と分かっていながらあえてムチャブリするケース。もう一つは、ムチャブリと自覚していないケースです。

 前者の場合でまず考えられるのは、ムチャブリすることに純粋に快感を覚える人。こういう人は、確かに存在します。自分の支配欲を満たすために、他人に無茶な要求をするのです。わがままと分かっていても相手に要求を飲ませることで、一種の承認願望を満たす人もいます。

 ムチャぶりをした本人自身が誰かにムチャブリされているケースもあります。上司に「なんとかベンダーに無理を言ってでもやってもらえ」とムチャブリされて、抵抗できないような場合です。

 一方で、ムチャブリを当人が自覚していない場合は、ムチャブリする人、される人双方の情報不足が原因となっていることが多くあります。

 今回の相談のケースでは、顧客は、自分の要求していることを実現するのが簡単だと考えているようです。これは、ムチャブリする方に情報が不足しているケースといえます。

 例えるなら、ラーメンにチャーシューか何か一つトッピングするぐらいに簡単だと思っているのでしょう。実はスープから作り直さないといけないほど大変なのですが、ラーメンを実際に作ったことがない人には、そのことが分からないのかもしれません。

 ムチャブリされた人に情報が不足しているケースもあります。同じラーメンの例えでいけば、お客さんが「スープの味が薄いよ」と言ってきたとします。実はこれだけでは、どのような要求かよく分かりません。でも、聞き手は不足している情報を推測で補って、「えっ、最初から作り直しか?」と、作り直しを要求されたように感じてしまうかもしれません。

 まとめると、ムチャぶりには次の4種類のケースがあります。

1. 要求側が自覚しておらず、受け手側にも情報が不足している
2. 要求側が自覚しておらず、要求側に情報も不足している
3. 要求側が自覚しているが、自分の本心ではない
4. 要求側が自覚しており、自分の本心から言っている

 この4種類をまずは意識します。そして、今自分が要求されていることがどれに当たるのか、確認する作業が必要です。対処の難易度は、1から4へと向かうほど難しくなります。

 実際には、ムチャブリの多くが1か2に該当します。私がプロジェクトの現場で見るムチャブリの80%は、1か2です。ここでは、この1と2の場合の対処法について説明しましょう。

 1の場合は、まずは相手の本当の要求を確認することが重要です。スープを最初から作り直すのでなく、塩や醤油を少し足すだけでもいいのかもしれません。詳しく話を聞いて、何を要求されているのか把握します。