アマゾンはまた日本の消費スタイルを変えてしまうのだろうか?

 2016年12月5日、アマゾンは日本で「Amazon Dash Button(アマゾンダッシュボタン、以下ダッシュボタン)」サービスを開始した。ダッシュボタンは冷蔵庫や棚に貼り付けて、洗剤や水、ヘアケア用品、食品、ペットフードなどの日用品をボタン一発で注文できる、新スタイルのIoT(インターネット オブ シングス)デバイスだ。プライム会員がこのサービスを利用できる。

 2017年2月時点では「アタック」「ジレット」「ファブリーズ」「レノア」「リステリン」「ネスカフェ」「フルグラ」「エビアン」など、40以上の有名ブランドの商品をダッシュボタンで注文できる。デバイス自体は500円だが、初回注文時にその商品の価格から500円引かれるため、実質無料といっていいだろう。

ダッシュボタンは裏に接着テープが貼ってあり、買いたい日用品のそばに設置できる
ダッシュボタンは裏に接着テープが貼ってあり、買いたい日用品のそばに設置できる
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40以上のブランドのダッシュボタンが用意されている
40以上のブランドのダッシュボタンが用意されている
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 ダッシュボタンを取り寄せて実際に使ってみると、サービスの簡便さに驚く。スマホアプリと自宅のWi-Fiネットワークの設定はあるものの、初期設定は数分で終わる。商品の注文は本当にボタンを1回押すだけで終了。注文履歴はスマホアプリの通知で確認でき、また何度ボタンを押しても一度しか注文を取らない。発送状況を参照しており、初期設定では、商品が届くまで次の商品はオーダーできない仕組みになっている。また発送前ならアプリなどから注文をキャンセルできるため、誤って押してしまった際も安心だ。よくできているサービスの仕組みだと感心した。

 ただ、最初にWi-Fiネットワークの設定が必要なのが、ITに詳しくない一般ユーザーにはハードルが高いように感じた。また筆者の場合、注文した洗剤が大きいサイズだったので、次の注文はずいぶん先になりそう。次にまたダッシュボタンを使うのか、それとも実店舗で買ってしまうのかは、まだ判断がつかない状態だ。

スマホアプリがあれば設定は簡単。ただWi-Fiネットワークの設定があるため、ある程度のITリテラシーは必要だ
スマホアプリがあれば設定は簡単。ただWi-Fiネットワークの設定があるため、ある程度のITリテラシーは必要だ
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ボタンを誤って押した場合でも、前回注文した商品が配送中であれば、注文は有効にならない。こうした仕組みはよくできている
ボタンを誤って押した場合でも、前回注文した商品が配送中であれば、注文は有効にならない。こうした仕組みはよくできている
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自宅の洗濯機置き場にダッシュボタンを貼ってみた。ただ場所を選んで、何度も貼り替えていたせいで、ダッシュボタンの接着テープが弱くなり、下に落ちてしまった。貼る場所は事前に考えておいたほうがいい。また、ダッシュボタンはフックに掛けることもできる
自宅の洗濯機置き場にダッシュボタンを貼ってみた。ただ場所を選んで、何度も貼り替えていたせいで、ダッシュボタンの接着テープが弱くなり、下に落ちてしまった。貼る場所は事前に考えておいたほうがいい。また、ダッシュボタンはフックに掛けることもできる
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 ダッシュボタンは、便利さだけでなく、サービスの先進性やビジネスモデルにも注目が集まっている。2017年1月中旬にはダッシュボタンについて論じたブログがネット上で大きな話題となり、Twitterのその日のトレンドに「Amazon Dash Button」が入るほど拡散した。

 実際のところ、ダッシュボタンの狙いや日本での状況はどうなっているのだろうか。アマゾンジャパンのAmazon デバイス プロダクトマネジメント本部 シニアプロダクトマネージャーの橋本肇氏に聞いた。

ダッシュボタンの電池持ちは?

一般ユーザーにとって、ダッシュボタンのメリットはどんなところにあるのでしょうか?

橋本肇氏(以下、橋本):ダッシュボタンは「日用品を補充するわずらわしさを最大限排除する」という狙いで開発されました。スマホで商品を検索・注文する手間すら省き、「足りないな、買おうかな」と思った瞬間に、何も悩まなくてもワンボタンで注文できる仕組みになっています。これによって日用品の買い忘れや買いだめを防げるでしょう。

 アマゾンにはもうひとつ、日用品を自宅に定期的に届ける「定期おトク便」サービスがあります。おトク便は毎月同じ量だけ使う商品の買い回りに向いていますが、ダッシュボタンは月によって消費量に違いがある商品の注文に向いています。ユーザーのちょっとした消費スタイルの違いに応じて、サービスを選べるようになっています。

Amazon デバイス プロダクトマネジメント本部 シニアプロダクトマネージャーの橋本肇氏
Amazon デバイス プロダクトマネジメント本部 シニアプロダクトマネージャーの橋本肇氏
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ネットでは「ダッシュボタンの電池持ちは1年」というウワサが流れていますが、実際のところはどうなんでしょうか?

橋本:ダッシュボタンの電池持ちは、ボタンを1000回押しても大丈夫な仕様になっています。月に2回、注文のために押したとしても、優に10年以上は持つ計算です。実際は部品の耐久年数があるので10年は無理ですが、それでも2〜3年は使い続けられます。

充電することなく、数年間使い続けられるんですね。

橋本:ダッシュボタンはこれ自体でインターネットに接続するIoTデバイスですが、待機状態ではほとんど電池を食いません。ボタンが押されると、そのつどシステムが数秒で起動してWi-Fiに接続し直し、アマゾンに注文を送る仕組みになっています。だから電池持ちが良いのです。

 こうした電源管理技術を備えたことで、「冷蔵庫やパントリーのなかに貼っておき、日用品が足りなくなったらワンボタンで注文する」というサービスが可能になりました。技術の進歩によって、そこに技術があることを感じさせないほどのシンプルな端末ができた。これがダッシュボタンの特徴だと考えています。

ただ、初期設定で自宅のWi-Fiネットワークにつなぐための設定が必要な点が、ITに詳しくないユーザーにはハードルが高いように思えました。Bluetoothを使ってスマホに接続するほうがよいように思ったのですが……。

橋本:初期設定ではスマホが必要ですが、その後はスマホを持っていなくてもワンボタンで注文できるよう、ダッシュッボタンはWi-Fiに接続する仕組みになっています。スマホがなくても独立して動くようになっているのです。