ここ数年、マイナンバー(社会保障と税の共通番号)の制度化、政府CIO主導による行政システムの最適化、自治体クラウドの推進など、IT活用による行政サービス/事務の高度化・効率化の取り組みが急速に広がっている。セキュリティなどのIT技術の専門家として政府の電子行政政策に深く関わってきた大山永昭東京工業大学教授に、現状の評価を聞いた。

(聞き手は本誌編集長、井出 一仁)

3月に総務省の検討会の座長として、「電子自治体の取組みを加速するための10の指針注1)」を取りまとめました。

大山 永昭氏
大山 永昭氏
写真:佐藤 久

 自治体だけでなく国のシステムもそうですが、行政システムで最も大きな課題はシステムの刷新とそれに関わる調達の改革です。そこでの最大の問題は、競争が働く開かれた市場になっていないことです。

 自治体システムがこうした状況になっている原因は2つあります。

 一つは自治体が持つ住民情報の移植性が十分に確保されていないことです。例えばA社のシステムからB社のシステムへ情報を移す際にはデータの記述形式などが変わる可能性があります。しかし従来の調達方法では移植はB社の役割になるので、B社はA社にデータの仕様などを詳しく聞かないと作業ができません。このためベンダーの切り替えが難しくなっていました。

 全国地域情報化推進協会(APPLIC)が「地域情報プラットフォーム注2)」の標準仕様を作成・公開しており、その普及が望まれますが、使うかどうかは任意なので強力な推進力が必要です。

データ移植性の問題は当面、解決の見込みがないのでしょうか。

 実はマイナンバー制度で各自治体に導入される「中間サーバー注3)」に注目しています。

 中間サーバーには、国の機関やほかの自治体との間で住民情報を連携させるために、各自治体の各種業務システムの住民データが、副本として標準化されたフォーマットで保存されます。つまり、各自治体は業務システムを更新する際に、業務システムにある原本のデータは捨てて、中間サーバーにある副本を使って原本を再生できるはずです。これを実現すれば、データの移植性の問題は解決できるでしょう。