社会保障と税の番号制度であるマイナンバー制度が、いよいよ始動する。10月から住民一人ひとりに番号が通知され、2016年1月から運用が始まる。行政学・公共政策の専門家として制度設計の初期から議論をリードし、現在は少子高齢化・人口減少という最大の政策課題の基礎データの提供を担う国立社会保障・人口問題研究所で所長を務める森田朗氏に、制度への期待や課題を聞いた。(聞き手は本誌編集長、井出 一仁)

住民へのマイナンバー(個人番号)の通知開始が半年後に迫りました。制度創設から関わってきた立場で現況をどう見ていますか。

森田 朗氏
森田 朗氏
写真:佐藤 久

森田 マイナンバー制度の意義が、ようやく国民に認識され始めたと感じています。

 番号制度がなくても、これまで国民は不便を感じていませんでした。マイナンバーも制度設計の段階では、個人情報保護の観点から慎重論が声高に叫ばれました。

 しかし、日本社会は急速に高齢化が進んでいます。ケアすべき人がどんどん増える一方で、ケアを提供する若い人が急減しています。こうした状況が広く知れわたるにつれ、税・社会保障給付・年金などが結び付いたマイナンバー制度への理解が進んだのではないでしょうか。

今国会での成立を目指すマイナンバー法の改正案では、適用分野として、限定的ながら新たに医療分野も盛り込まれています。

森田 番号に基づく健康記録の管理は、追い風に変わったと言えます。これも高齢化が進んでいるためです。「地域包括ケア注1)」を推進する改正介護保険法ができたことも、影響しているでしょう。

 在宅ケアを利用する人は、多様な病歴がある人が多く、また医師やケアマネージャ、介護福祉士など多様な人材が支援に関わります。要介護者の情報を関係者全員で共有しないと、効率的なケアはできません。

 一例が「おくすり手帳」です。今は服用している薬を記録した手帳を本人が持っていますが、認知症の人に管理させるのは難しい。むしろ番号に基づくカードを使って情報を管理したほうが、本人にも医師にも便利で、無駄な処方をなくす意味で財政にもよいわけです。

 もう一つの例は予防接種です。どこでいつ接種しているか記録を取るのは市町村の義務ですが、本人が引っ越すと記録をたどれず分からなくなる可能性があります。マイナンバーを使って他市町村の接種履歴を照会できるようにすることが、今回の改正法案に盛り込まれました。