2016年1月に始動したマイナンバー制度では、住民との接点として市区町村が制度運用の最前線に立つ。全国市長会の評議員や、政府のIT総合戦略本部の「マイナンバー等分科会」の構成員を務め、基礎自治体の首長の立場から制度の導入・活用の検討に深く関わってきた三鷹市長の清原慶子氏に、自治体行政におけるマイナンバー制度の価値や課題、展望を聞いた。

(聞き手は本誌編集長、井出 一仁)

基礎自治体の首長として制度運用に当たり取り組んだことは。

清原 慶子氏
清原 慶子氏
(写真:佐藤 久)

清原 三鷹市は2013年5月のマイナンバー法公布と同時に、庁内横断の検討チームを立ち上げました。基礎自治体の現場で住民利便に役立てるためにどんな行政サービスが可能なのか、自治体事務での課題を洗い出し、適切に対応するためです。窓口業務・サービス、個人情報保護、条例改正、市民・職員への周知の4つの検討部会と、システム開発導入に関するサブ部会を設けました。

 そこで分かってきたのは、例えば社会保障の分野では、高齢者福祉、障害者福祉、子育て支援など、少子長寿社会の中で自治体が関わるサービスについて、少しでも申請の負担を減らせるようになること。さらに、本来ならサービスを利用できるのに知らないことで受ける不利益をなくせることです。これまでの申請主義からプッシュ型へと、行政サービスの質をきめ細かく向上させられることを確認しました。

政府の検討会などで訴えてきたのも、そうした点でしょうか。

清原 ずっと主張してきたのは、住民のライフイベントに即した行政サービスの充実にマイナンバーを活用したいということです。

 乳幼児医療費や児童手当の給付申請、転入・転出時や死亡時の国民健康保険や介護保険、後期高齢者医療制度の手続きなど、住民は慌ただしい中で証明書取得などの手間を強いられています。ライフステージごとのきめ細かな支援を実現して住民負担を減らす、基本的人権を尊重するプロセスにこそマイナンバーを生かすべきです。

 構成員を務める政府のIT総合戦略本部マイナンバー等分科会は、3 月中に「災害対策・生活再建支援」と「子育てワンストップ検討」のタスクフォースを立ち上げます。自治体は国民の命を守る現場という、これまでの発言が反映され、命に関わる部会ができることを心強く感じます。

 気をつけなければいけないのは、ライフイベントでのサービスには、民間と連携して個人情報を守りながら進めるべきケースもあることです。行政と民間が個人情報保護を前提としてセキュリティを確保した連携方法を確立する必要があります。