9月29日、都政改革本部の調査チームが2020年東京五輪・パラリンピックの調査報告書を発表した。「Ver.0.9」となっており、完全最終版ではないが、調査は9割方終えた。発表後、様々な方々からいただいたご意見を踏まえ、2020五輪のあり方について考えてみたい。
(1)東京五輪か国家的事業か?
オリンピックを開催するのは東京都であり、国ではない。運営の中心となる大会組織委員会には国は出捐(しゅつえん)していないし、補助金も出していない。リオデジャネイロ大会の閉会式ではマリオに扮した安倍総理が現れたため、国民も世界各国も次の大会のホストは日本国、そして総理だと誤解したかもしれない。しかし、あくまでこれは東京都が招致したオリンピックである。
(2)復興五輪
だが招致の際には復興五輪を主張した。今もその理念は変わらない。だからもともと東京都内では完結しないし、国も協力して開催する予定である。国もそのつもりで担当大臣を置いている。競技場も野球やサッカーの予選に福島県や宮城県の施設が使われる予定だし、ボート会場も宮城県に移す案を調査チームは示唆した。
(3)東京以外での競技開催
総予算が当初の見込みより膨らんでいる。2014年には、それを抑制すべく、国際オリンピック委員会(IOC)と東京都の主導で会場の見直しや新設の取りやめなどが決定された。その結果、埼玉県、千葉県、神奈川県、静岡県などにある既設の施設に自転車やセーリングなどの競技場が移された。その結果、実態は東京五輪から関東五輪に変わりつつある。
(4)誰が負担するのか
五輪の競技場では既設のものを改修して使うのが普通だが、中には五輪を機に新設することもある。あるいは仮設施設を造り、大会後に壊す場合もある。また施設の上に追加する設備もある(座席、放送用照明など)。さらに五輪特有の通信設備や警備ゲートなど(オーバーレイといわれる)も必要になる。このうち仮設的なものは原則、組織委員会が負担し、後利用が見込める恒設部分は地元の設置者が負担するという原則になっている
(5)分担問題が発生
ここまではよかった。しかし、計画が進むにしたがって、上記の原則では負担のルールが確立できないとわかってきた。総費用が膨らんだことにより、約5000億円しか収入が見込めない組織委員会が仮設施設の建設費をすべて負担するのは難しくなる。
原則を変えて、開催都市の東京都か国が肩代わりする必要が出てくる。わかりやすい打開策は、都内の仮設施設については東京都が負担するというルールである(約1000億~1500億円と見込まれる)。開催都市としての責任もあり、そもそも組織委員会が破たんすれば債務を負うのは都庁である。ならば、さっさと引き取り、都が恒設も仮設も都内の施設は全部負担する――。調査チームはこれを提案した。
だが問題は東京以外の各県の分である。地方財政法上、ここに東京都が税金を投入するのは難しい。厳密にいうと2年未満で壊す設備には出せなくもない。しかし、座席や照明装置などは2年で撤去するのはもったいない。五輪を機に整備し、後利用するべきだろう。となると地元の各自治体が恒設施設として負担するか、国が補助金を出すしかないだろう。
(6)国の役割
長野五輪の時には、国は文部科学省からの補助金という形式(社会体育施設整備費補助金)で長野県に対して340億円を補助した。ところがこの制度は2005年(平成17年)に廃止された。しかも国は施設の建設には一切資金を出さないと主張しているそうだ。これでは立ち行かない。
開催都市の東京都は自治体であり、地方財政法の制約を免れない。会場が都外に拡散してしまった現在、国が各自治体を支援しなければ五輪は開催できないだろう。目の前にある選択肢は限られる。たとえば、次のようなあたりだろう。
○選択肢1:他県の恒久施設の改修費用は、後利用のメリットを考え、なるべく地元が出す。そのうえで足りない分は国も補助金を出す。
○選択肢2:選択肢1が成り立たない場合は、コストを負担してもよいという自治体に競技会場を移す。あるいは都内に戻す。
○選択肢3:競技会場を都内に戻す場合、都の負担で施設建設をすることに対して都民の理解が得られない場合(額が巨額など)は、競技種目を返上する。
(7)都と国の連携プレーが必要
五輪を成功させるにはテロ対策など国の積極参加が不可欠だ。ロンドンでもリオでも政府が中心となって資金を出し、組織委員会を運営してきた。だが、東京大会の準備においては、政府は存在感が薄い。安倍マリオはよかったし、元総理が組織委員会の会長というのもまあいいだろう。しかし、その程度でいいのか。一方、都庁は組織委員会に200人超もの人材を出向させているが、存在感が薄い。いったい誰が中心にやっているのか、よくわからない。国と都が連携し、被災地の宮城県や福島県を暖かく支援しながら進めるのが本来の姿だろう。
慶應義塾大学総合政策学部教授
