9月から東京都庁に「都政改革本部」ができ、特別顧問の仕事を始めた。テーマの一つにオリンピック・パラリンピックの調査がある。これは、予算、組織や国と組織委員会との連携体制を調査し、改善余地があれば知事に提案する。守秘義務があるので調査の途中経過は紹介できない。だが作業の過程でオリンピックについて今更ながらいろいろ考えた。

変わらないことの価値

 2020年大会は、前回の東京大会から56年後の開催となる。新たに加わった種目もあるが、競技種目の多くは変わらない。種目の多くは人体の構造に合わせ、何世代もかけて発達してきた。わずか数十年で変わらない。むしろ注目すべきはパラリンピックだ。道具や会場の技術革新で障害をもった人でも多くの競技ができるようになった。大きな変化だろう。

 だが、それを除くと、「聖火ランナーがいて各国選手がメダルを競う世界の祭典」というスタイルは変わらない。オリンピックは、4年ごとに同じことをやる。いい意味での“偉大なるマンネリ”、ワンパターンであるが故に安定したイベントである。この意味で数十年単位で続く連続ドラマ、連載小説のようなところがある。

大学ビジネスに似ている

 ところでオリンピックは大学経営に似ている。まず主役が若者である。だからさわやかで人気がある。競技種目(科目)が基本的に変わらない点も似ている(時代に合わせ、少しずつ変わるが)。選手(学生)が基本的に4年で入れ替わる点も似ている。

 大学もオリンピックも課外活動を重視する。大学ではキャンパスが、オリンピックでは選手村があって、学生(選手)たちはそこで友達を作り、交流を育む。大学は単位認定、修了資格認定、そして受験のプロセスで個人に学歴を与える。同様にオリンピックも記録認定、メダル授与を通じてアスリートたちにメダリスト、あるいはオリンピアンという資格を与える。

 いうまでもなくたかが学歴で人間の価値は大きく変わらない。同じくオリンピックに出ずして世界記録を出すアスリートがいる。しかし大学の場合、学校ブランドや学歴への憧れ、オリンピックの場合は出場の夢やメダルへの執念は努力の励みになる。

 ちなみに大学は一定のブランドを確立するとおのずから優秀な学生と教授陣が集まる。それだけで勝手に回っていくところがある。オリンピックも同じだ。圧倒的なブランドが確立できているので放っておいても各国の一流選手が集まり、世界記録がどんどん出る。

 このように大学もオリンピックも4年ごとに“偉大なるマンネリ”を繰り返しながら強力なブランドを確立していく。どちらもパワフルでユニークなビジネスモデルといえる。

 だが、大学とオリンピックにはもう一つ共通点がある。それは全体としては成功しているが、個々の事例は決してうまくいくとは限らない点である。大学は全体としては進学率が上がり、市場が成長している。だが個々の大学の経営を見ると失敗も多く、どこも様々な問題を抱えている。オリンピックも同じだ。全体としては年輪を重ね、圧倒的な地位を築いてきた。だが多くの大会で赤字問題が指摘され、開催都市と国際オリンピック委員会(IOC)、そして競技団体は利害調整に苦慮する。

 “偉大なるマンネリ”は時代に合わせてその姿を変えなければ存続し得ない。2020年東京大会も“偉大なるマンネリ”を踏襲しつつも時代に合わせた革新性を追求すべきだろう。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。