小池知事の就任で東京都の改革が始まった。選挙戦から保守の分裂、無党派の支持、劇場型選挙などの要素をとらえ、大阪の維新改革との類似性を指摘する向きがあった。実のところはどうか。掘り下げて考えてみたい。

ともに保守が分裂し、造反組が正規軍を撃墜

 都知事選は、確かに2011年・15年の大阪ダブル選挙に似ていた。大阪維新も小池陣営も、ともに成長戦略を重視し、政策・主張が近い。緑色のテーマやガラス張りの街宣車もそっくりだった。しかし最も似た点は保守の分裂の構図だろう。無党派の勝利といえば、従来は革新が保守を破るパターンだった(滋賀県の嘉田氏など)。ところが大阪でも都知事選でも、保守内の革新勢力(造反組)が“古い保守”の自公連合(正規軍)を破った。

ともに「厚遇問題」が引き金

 都知事選では「二代連続で知事が辞めた政治とカネの問題」が是正課題とよく報じられた。これは間違っていないが、人々の関心事は税金の使われ方だった。つまり公用車で湯河原に通い、豪華な海外出張を繰り返し、かつ開き直る舛添知事(当時)に対する怒りではなかったのか。つまり税金を使う為政者側の感覚のずれが都民の怒りを買った。

 さて大阪の場合はどうか。橋下知事の前任の太田知事は不祥事でやめたわけではない。しかし、知事選(2008年2月)の前の3年間、大阪市は「職員厚遇問題」で揺れに揺れた。府庁内でも裏金問題が発覚した。橋下知事への期待やその後の大阪維新への継続的な高い支持の根っこには、2004~05年にかけて噴出した大阪市役所の職員厚遇問題への激しい怒りの記憶があった。

 大阪市役所ではヤミ残業に加え、制服と称して税金で背広を買い、OBにヤミ年金まで払っていた。またバスの運転手に年間1300万円の給与が払われるなど、不透明な労使関係に由来する不審事が噴出した。筆者はそれを究明する委員会(福利厚生問題等改革委員会)の委員として実態解明と再発防止策の作成を担当したが、当時の市民と報道機関の怒りはすさまじかった。

 (参考情報)大阪市福利厚生制度等改革委員会のページ
http://spwww.city.osaka.lg.jp/shiseikaikakushitsu/page/0000013155.html

 この点において今の東京都民は12年前の大阪市民と似ているといえよう。だから都民は「ブラックボックス」の解明、情報公開を訴える小池氏を支持した。

最大の課題は情報公開

 行政改革を成功させるうえで最も重要なことは「情報公開」である。いつどこで誰が何を決め、どういう理由でどこの業者に決まったのか。事業の目的は何か、成果は何か。こうした基本が常に公開されると、不正・不適切な事象も無駄遣いも抑止される。また、そもそも納税者には知る権利がある。

 例えば東京都では建物と土地で合計約5800億円もの費用をかけて豊洲の東京ガスの工場跡地に築地市場が移転する。しかし土壌汚染地の洗浄代をなぜ買い主の都が負担したのか、なぜ建物建設費が当初予定の3倍にもなったのか、謎が多い。オリンピックも同様である。なぜ開催費用が当初の3000億円から7000億円になり、さらには1兆円、そして2兆円に膨れ上がるのか。なぜ都が当初の合意に反し、仮設施設の建設費の一部を負担するのか。謎だらけである。

 大阪の場合は財政危機の中、なけなしの税金が職員の厚遇に使われていた。その実態が福利厚生問題等改革委員会によって解明された。東京でも知事は都政改革本部を置き、オリンピックの費用の調査や情報公開のあり方を見直すという。

 市民(都民)の怒りに対して素直に情報公開で応える、という意味で、今から12年前の大阪市役所の改革と同じことが東京でも始まりつつある。大阪ではその3年後、2008年から大阪維新による一連の政策の見直しが始まった。東京の場合もきっとそうだろう。

 知事はまずは選挙で約束した通り、情報公開に対する市民(都民)のささやかな疑問に応えるべきだろう。それがやがて業務改革につながり、さらに大きな改革のうねりや政策の刷新に発展していく。豊かであるがゆえに東京都は改革が遅れていた。大阪に遅れること約12年・・・。やっと覚醒しつつある東京都の都政改革に期待したい。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。