前回は、削減中心の行政改革「行革1.0」、生産性改善の行政改革「行革2.0」に続き、これからは既存の施設(ストック)の有効活用に着目すべき(「行革3.0」)と提案した。具体的にどうするのか。

庁内各部門に不動産を“吐き出させる”

 役所は空き地や老朽建物など膨大な遊休資産を持っている。ところが所掌する各部門に照会すると、「将来、もしかして建設予算が付いたら使うかもしれない」「万が一の災害対策で持っておきたい」といった回答が返ってくる。企業と違って行政機関が土地を所有するコストは極めて安い。だから「万が一(予算がついてラッキー、あるいは災害などの不幸)」に備えて、各局は不動産を所有したがる。

 したがって有効活用を狙うならば、各局の縦割りを超え、首長直結で個々の資産の総棚卸しをする必要がある。こうして真の必要性を掘り下げていくと、廃止、縮小、あるいは他部門との複合施設化(建て替えや移転)といった出口に至り、余剰地を売ったり貸したりできるようになる。

 しかし「売る」「貸す」といっても立地によってはなかなか買い手や借り手が現れない。中には無償ですら相手がいない場合がある。一方で議会や市民からは「正当な価格」で売れと言われ、板挟みになる。

民間からの自由提案

 こういう場合はどうすべきか。お勧めしたいのが、いったん民間事業者に“丸投げ”してみることである。つまり民間事業者に地域活性化につながる用途を自由に提案してもらい、その中から一番よさそうなものを選んでいくのである。

 例えば、公園整備と一体で商業施設を誘致する案、学校の空地を利用して太陽光パネルを置く案などアイデアはいろいろある。ただし、役所は新規投資は一切しないし、事業の赤字の補てんもしない。その代わり民間事業者に自由な発想で遊休施設を有効利用する方策を考えてもらう。黒字が出たらリスクに見合った収益を事業者側が得るのもよし、役所にキャッシュで還元してもらうのもよし、市民向けサービスで還元してもらうのもよし、それもすべて事業者に提案してもらう。

 役所側は「使ってもらえたらそれでハッピー」というスタンスに徹する。つまり欲をかかない。何しろ元は遊休地である。価値も雇用も生んでいなかったのだから、そこで事業者がもうけても、役所が損をしたと考えるべきではない。「使ってくれてありがとう」と感謝すべきなのである。

 事業者のもうけが不当に高い場合は協議すべきだが、そうでなければ応募する事業者間の自由競争に委ねればよい。要するに事業者側に用途も条件も自由に提案してもらう。まずは提案をしてもらう。役所側であらかじめ公園にしてほしいとかホテルがいいとか余計な指示はしない。案が出てから考えるのである。

何に使うか(WHAT)より誰に委ねるか(WHO)が先

 ここで大事なことは現実主義に徹するということである。もしかしたら他の用途やもっと有利な条件があるかもしれない。しかし、「たら、れば」は考えない。誰がそれを実現できるのか、を先に考える。課題は目の前にある具体の不動産である。目の前で手を挙げている事業者の中からしか答えは出てこない。だから抽象論や理想論は捨てて、目の前にある現実を直視する。役所はお金を出さないのだから、「今までのまま(放置)よりはまし」と割り切る。

積極的オープンデータの重要性

 さて、遊休施設の存在はどうやって事業者に知らせるのか。いわゆるオープンデータの仕組みに載せて不動産の情報を出せばよい。すでに各地の自治体が公共施設をオープンデータとして提供し始めている。その結果、各種統計データが出店戦略や不動産投資の参考とされ、公共施設の一覧や地図情報がアプリに生かされ、スマートフォンを使ったシティガイドに使われている。

 これらと同様に遊休不動産の情報を出していけばよい。その際には、近隣施設の状況や現存施設の利用実績や維持管理コストなどの運営情報も出していく。それも含めた全体的な土地柄の情報を出しておくと、事業者側は自由な提案をしやすい。私はこれを「積極的オープンデータ」と呼んでいる。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。