消費増税が延期された。増税しても焼け石に水だったとはいえ、先送りとなると一層の行政改革が要請される(景気対策のための財政出動は別として)。計2回で、これからの国と地方の行政改革について考えたい。

財政再建と行政改革

 財政再建と行政改革の関係は複雑だ。健全財政なくして健全な経営はあり得ないので、本質的には目指すところは同じだ。しかし現実には矛盾が生じる。なぜなら行政改革の目的は、さまざまなステークホルダーの意向で左右される。例えば利用者は良いサービスを求め、納税者はバリュー・フォー・マネーの向上を求める。これに対し、財政再建はもっぱら収支均衡を目指す。

 両者の間で改革についての時間感覚にずれが生じることもある。行政改革では目先の赤字を顕在化させてでも実質破たんしている道路公社を解散したり、IT投資をしたりする。これらは中長期的な財政再建には寄与するが、目先の収支改善には貢献しない。

 財政再建は本来、不良債権を整理し、資産を売却しといったバランスシート改革が主眼になるので、こうした改革を支持するはずだが、現実にはそうではない。なぜなら財政部門は、予算編成という政治を巻き込んだ大きな年中行事を軸に仕事をする。そのため、財政部門はどうしても単年度での収支実績を求め、目先の税収の出と入り、つまり経費節減と増税の話に終始しがちだ。

 昨今は、そんな財政部門に行政改革部門がつられてしまうケースが多い。つまり一緒に目先の節約運動を展開し、行革部門が来年度予算の財源不足を理由に仕事をする。そして各部門に人件費や事業費の削減を迫り、目先の年度予算の編成の手伝いをする。

単年度主義の弊害

 多くの自治体で、そして中央省庁でも、行政改革は本来の目的を見失い、財政再建の一手段になってしまっている。その結果、細かな事務経費の削減に終始し、不要不急の施設や事業の廃止、売却に目が向かない。それでもこれまでは削り代があったが、最近は団塊の世代の大量退職で人手不足が目立つ。そんななか、ひたすら削減という発想自体が実態に合わなくなってきている。

 今後はどうか。地域差はあるものの、国も自治体もだいたい以下のような状況にある。

(1)人件費は自然に減っていく(大量退職と若返りのため)。

(2)税収は増える見込みがない。

(3)高齢化で歳出は増え、特に基礎自治体では福祉や介護の担当職員が足りない。

(4)施設の老朽化で維持、建て替えの経費が増えていく。

(5)余剰資産を売却したくても買い手がなかなか現れない。あるいは極めて安くしないと買い手が現れない。

 将来予測の中で重要なのは、おそらく人口の高齢化と減少、そして施設の老朽化の見通しだろう。各部門では、老朽施設を今まで通りに建て替えようと考えがちだ。しかし、それを使う住民がそれほどいるのか、またコストを負担できるのか、精査しなければならない。これからの行政改革は、目の前の事務事業の効率性よりも、将来に向けた投資の費用対効果の精査に注力すべきだ。

「行革1.0」から「3.0」へ

 筆者は、単なる目先の節約を「行革1.0」と命名している。そこから一歩進んで既存の事務事業や施設の費用対効果の見直し、つまり生産改善をやるのが「行革2.0」だ。以上の2つは、行政評価の普及などでかなり進んだといえるだろう。

 だが、1.0も2.0も、もうやり尽くされた感がある。今後は既存の事務事業の枠を超え、政策の転換や廃止を考える。また見直しの対象を事務事業、つまり毎年の予算のフローの使い方だけでなく、施設、つまりストックにまで広げていく。具体的にどうするのか。次回以降で事例を基に考えていきたい。

 

(続く)

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。