もうすぐ、「大阪都」の住民投票から1年、そして橋下市長の退任から半年がたつ。その後の大阪はどうなっているのか。最近の大阪維新について解説したい。

「都構想」から「副首都構想」へ

 大阪都構想は住民投票で否決されたが極めて僅差だった。半年後の知事・市長選では二重行政の打破と都構想推進を掲げる大阪維新の会が圧勝した。このような民意を受け、大阪府と大阪市は副首都推進会議、さらに副首都推進局を共同設置した。そして松井知事は再来年秋までには再び住民投票に挑戦したいと表明した。前回の都構想はもちろん見直しが必要だが、大阪では何らかの形で府市のあり方は抜本的に見直すべきという意見が大勢を占めつつある。

 そんな中で出てきたのが「副首都構想」である。前回の「都構想」では大阪の中での府と市の二重・二元行政の問題が強調された。それに対して「副首都構想」では、日本全体の分権改革、一極集中打破、地域再生の視点から、大都市・大阪の都市戦略と大都市自治制度を見直す。この意味で視点はより高くなったといえるだろう。

副首都構想の眼目

 4月の第3回副首都推進会議で明らかになった副首都構想の骨格を紹介しよう。

 第1に副首都の必要性だ。これは大阪の都合ではなく、日本全体のあるべき姿という立場からその必要性を指摘するという点が新しい。東京一極集中のわが国の政治、経済、行政の体制は極めてリスキーである。震災等のリスクを考えると、政治、経済、行政のすべてにわたってバックアップの体制を構築する必要がある。今のままで東京に大震災が起きると、日本全体が麻痺(まひ)する。中でも主要な大都市はあらかじめバックアップの体制が作られていない中で、事実上の代替首都機能を担わされることになり、大混乱に陥るだろう。

 それは日本全体にとっても各都市にとっても不幸なことである。もちろんITサーバーやデータセンターのように、全国に分散配置すればよいものはそうすればよい。しかし、大きな設備や投資を必要とする機能(国際空港、高度医療機関など)は、東京から離れていて安全な地域のどこか1カ所に集約させる準備をしておいたほうがよい。そしてそれは投資額が大きいだけに普段から稼働させておいたほうが効率的だし、危機対応もスムーズである。だからどこか1カ所を副首都とあらかじめ、定めるべきである。

 さて第2には、その機能をどこに集中させるかである。東京から離れ、かつ周辺にインフラや人口の集積が一定規模あって、東京に代わって全国を統括できる場所を探すことになる。すると先進国としての高度規格の国際空港や港湾があって、東京との新幹線や高速道路の便が便利で、東京に次ぐ高度な都市機能を備えた大都市ということになり、おそらく大阪が最有力となるだろう。

 しかし、第3にその場合、今の大阪が十分に全国の副首都たりえるか、という検証が必要となる。すると中心部から関西空港までの鉄道インフラの不備、府と市の分散投資による高速道路などのインフラ建設の遅れなどが課題となる。この背景にはいうまでもなく府と市に分かれていることの制度不備、二重行政の無駄がある。この解消にはやはり、大阪市を廃止し、交通経済政策と財政を一本化する必要がある。また財源捻出のためには二重行政を打破しなければならない。

 かくして、広く日本全体の視点に立って副首都を作る必要性に照らしても、大阪市の解体と府市の再編は必須ということになる。

今後の展開

 しかし、府市の再編には再びの住民投票が必要である。都構想が昨年、いったん否決された以上、新たな案を精査し、再提案する必要がある。しかし大阪の窮乏化はその間にもどんどん進む。不幸中の幸いは、向こう3年半は知事と市長が維新の会に所属するので、行政レベルでの調整で二重行政が一次的に調整可能となる。その間に都構想なしでもできる改革を進めるのが先決である。

 例えば府立大学と市立大学の統合である。将来の統合を盛り込んだ中期計画が市議会で議決され、筆者も入った実務レベルの統合案作りが始まった。同様に府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所の統合と独立行政法人化も議決され、独法化と統合と移転が同時に進む見込みである。

 このようにポスト橋下時代の大阪では、松井知事・吉村市長のもと、いったんは否決された都構想の個別政策が着々と実現されつつある。都構想、そして大阪府市の抜本改革の案はすでに2年前に描き終わっている。あとはひたすら民意が熟し、議会、特に大阪市議会の議決を得るのみである。民主主義での改革には時間がかかる。その地道な作業をじっくりとこなしていけば、早晩、大阪の未来が開けていくだろう。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。