最近、ある市長から「行革大綱(案)」への意見を求められた。一読して「うーん」とうなってしまった。率直に言って、20年前と同じメニューであまり進歩がない。前半で人口減と高齢化を繰り返し、トーンが暗すぎるし、スマホやIoT(Internet of Things)などネット時代の技術革新への言及もない。個々の内容についても、全体の8割が補助金見直し、技能作業員の採用縮小、民間委託の推進など、昔ながらの課題ばかりだ。

 私は心の中でこうつぶやいた。「“行革”の名のもとで毎年、同じ目標を掲げること自体が“改革”の失敗を意味するのではないか」…。だが、この市に限らず多くの自治体で“行革”が行き詰まっている。

行革を覆う財政赤字の呪縛

 “行革”がマンネリに陥りやすい最大の理由は「財政赤字の削減」を主目的とするからだ。節約に終わりはなく、赤字削減に異を唱える人はいない。削減目標を掲げるとやりやすい。しかしわが国の財政は国も自治体も赤字が続く構造になっている(背景には、財政錯覚、安易に起債できる制度の欠陥、護送船団方式の悪弊、老人民主主義問題などがあり、それ自体が是正の対象ではあるが)。

 かつては目に余る放漫財政があった。無駄な公共事業、公務員の厚遇、余剰人員も目立った。だから1990年代には「とりあえず節約、削減」の方針に合理性があり、実際に大きな効果が出た。

人手不足の時代にミスマッチ

 しかし今や、たかが“行革”ではもはや財政赤字は解消しない。しかも今の行政現場では、人手不足や能力不足による仕事の遅れや不備(含む不作為)が目立つ。とりわけケースワーカーや保健師などの専門職員、技術者、企画スタッフが足りない。そんな中で“行革”は、十年一日のごとく全部門にさらなる外注化や職員数の削減、そして経費の削減を求め続ける。職員の新規採用は抑えられ、“有期雇用”“OBの嘱託”“派遣”でまかなうことになる。

 こうした人減らし策はつい最近までは有効だった。しかし、今は人手不足の時代である。メーカーや外食はもちろん、スーパーでもレジのパートを正社員化し、人材の囲い込みを図っている。企業は、品質を上げながら生産性も上げている。そのために機械化で業務プロセスを変え、時には人員増強もして持続可能な組織作りをする。

 ところが多くの自治体は昔ながらの“前年比○○%”の削減の“行革”をいつまでも続けている(ちなみに毎年1%ずつの費用削減を続けている国の独立行政法人がその失敗の典型である)。

“行革”を死語にしよう

 行革がひたすら予算と人員の削減ばかり目指す背景には、行政特有の予算・会計制度の問題もある。民間企業の業務改革では、経費削減だけでなく売り上げの拡大も目指す。そのために不要な資産は処分し、余剰の不動産を人に貸し、無用な借金は返済する。いわゆるバランスシート改革もやる。

 ところが行政の場合、売り上げ拡大は見込みにくい。税収増を受け身で待つしかないので、つい経費節減に目が行く。しかし出費には投資と経費の両方が含まれる。人員の新規採用には投資的意味合いもあるのだが、行政では出費としかとらえない。財政の仕事は毎年の予算編成が基軸で、行政改革もそれに追随して毎年の予算の削減と人員削減を追求する。だから中長期的視点、投資の発想が出てこない。

 地方創生や街づくりを掲げるならば、まずは“行革”のあり方を見直すべきだ。つまり、そろそろ“行革”自体を行革の対象にしてもいいのではないだろうか。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。