前回、予告したとおり、2015年12月28日に大阪府市の「副首都推進本部会議」が始まった。筆者も府市特別顧問として参加し自説を紹介した。

南北に長い地震・火山国という事情

 前回、整理したが他国に副首都を明確に定めた例はない(上海や釜山など事実上の例はあるが)。なぜ、日本について制度化する必要があるのか。理由は2つある。

 第1は、リスクマネジメント、つまり災害時の首都機能のバックアップの確保である。わが国は地震と噴火が多く、南北に細長い。東京が地震や火山噴火で麻痺(まひ)する可能性は低くない。だがそんな場合でも西日本は遠く、免れている可能性が高い(逆の場合も同じだが)。幸い、東京-大阪間は500キロメートルも離れている。

 第2は、西日本の拠点となるグローバル都市の整備という意味である。これも国土が南北に長いことに由来する。世界の経済はますます都市がけん引する時代になる。一国の国力は、かつては人口や領土の広さで決まったが、今では一流の都市の数とその繁栄の度合いで決まる。わが国は細長い日本列島に人口が密集している。北から南まで一定規模の大都市が成立し、それぞれが独自に発展していかなければならない。

 西の端は福岡、北の端は札幌だが、人口が集中する本州の西部、つまり関西には東京並みの拠点都市が位置すべきだろう。関西には古くから文化や経済活動が集積してきた。神戸、京都、奈良の歴史の集積も生かしたうえで、西日本の首都として大阪をグローバル都市として突出させていくことが国家戦略として現実的である。

リダンダンシーを避ける

 災害に備えるだけなら遠方の山の中に国会や省庁の機能を備えた設備を用意する方法もある。だがそれはあまりに無駄が多い。またバックアップの機能は普段からある程度稼働させておかないと、危機の際の立ち上がりが保証できない。だから副首都機能は普段から大都市として機能しているところに置くべきである。

 大阪を副首都にすれば低コストでバックアップ機能が作れる。たとえば国際空港としてすでに関西空港がある。24時間使える滑走路があり、問題は市内からの鉄道アクセスだけだ。JRと南海電鉄を成田エクスプレスや京成スカイライナー並みに便利にすればよく、それに必要な投資は2000億円程度だ。このようなバックアップ機能の整備のための投資で西日本の拠点都市としての機能の強化も図れる。まさに一石二鳥である。大阪にバックアップ機能を置けば、公共事業のリダンダンシー(バックアップのための重複)の無駄も省ける。

国家戦略としての副都市戦略

 大阪は停滞している。だから新たな産業、都市戦略を必要としている。だが、日本国も災害のバックアップとして、また国力を支える西日本のエンジンとして大阪の発展を必要としている。大阪の副首都戦略は、この意味で国家戦略といえる。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。