前回に続き、橋下徹氏との7年間を振り返る。

ダブル選と都構想

 2011年11月の大阪市長・大阪府知事のダブル選挙後、私は再び府の特別顧問となり、また大阪市の特別顧問にもなった。府立と市立の大学統合、地下鉄・バスの民営化など、前代未聞の大がかりな作業が始まった。私も東京から毎週一度の大阪通いでは足りなくなり、市長や知事との深夜のメールのラリーが増えた。

 府の改革の初期とは違って、大阪市では民営化や統合の案件がことごとく市議会の反対にあった。市議会は、経営形態やサービスの中身の問題よりも、自分たちの権限行使の範囲が狭まるのを恐れた。やがて、与党の市長・大阪維新の会と野党の各会派の対立は、都構想の賛否をめぐる議論に収れんしていった。

 都構想は一義的には行政サービスの提供主体のあり方をめぐる議論である。しかし議会も統合されるので、既存の選挙区の区割りが大きく変わる。当然、政治権力構造の組み替えが起こる。そして、都構想が実現すると、市議会がなくなり民営化などの改革が一気に進むという側面もまたあった。都構想は様々な思惑を巻き込み、賛成派と反対派の激しい対立を経て、2015年5月17日、住民投票で否決された。

 だが、府と市がいくら話し合っても二重行政の問題は解決しない。このままでは大都市・大阪はますます窮乏化していく。都構想に限らず府と市をひとつにする提案は、これからも消えずに残り、何回も議論の俎上(そじょう)に載せられるだろう。

市長を辞める橋下氏への期待

 さて、橋下氏は以前から「早く政治家を引退したい」「権力者は使い捨てでいい」と話していた。「弁護士に戻りたい、私利私欲に走るぞ(笑)」ともつぶやいていた。政治の世界の駆け引きはあまりに理不尽だから、気持ちはよくわかる。彼は貸し借りだの情念だのが横行する政治の世界は、本質的に好きではないように思う。そのあたりはすべて相棒の松井一郎氏におんぶにだっこだと自ら言っていたほどだ。本当はやはりすっきり辞めたいのだろうと思う。

 ただ、橋下氏が大阪の改革にかける思いは極めて強い。市長を辞めても都構想はあきらめない(私もそうだが)。5月の住民投票を経て実現へのハードルの高さを知り、大阪の政治の膠着(こうちゃく)状態を変えるには国の方から揺さぶる必要があると考えているように思う。

今後への期待

 大阪も、そして日本も重要な転機にある。私は橋下徹氏にはまだまだ政治の世界に残っていてほしいと思う。政治はますます彼を必要としている。

 具体的には2つの道があると思う。

 一つは民間人として入閣し総務大臣となる。そして地方自治法を全面改正し、時代遅れの政令指定都市制度を廃止する。各地が実態にあわせた地域制度や議会制度をつくれるように規制緩和をする。また、地下鉄やバスの民営化に際して、議会で3分の2の議決を要する今の制度を、過半数で可決できるように法改正をしてほしい。知事、市長として見てきた時代遅れのわが国の地方自治制度の矛盾を総務大臣として一気に解消する改革をやってほしい。

 もうひとつの案は、橋下徹氏は今度は国会議員となって時の政権与党と連携し、あるいは政権を取って、日本の大改革をやってほしい。

 私はこのいずれかを秘かに期待している。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。