「働き方改革」は、もはや国家戦略といえるほどの広がりを見せている。官民問わず、「早く帰宅せよ」「休暇をとれ」「フレックス勤務を考えろ」と経営者が旗を振る。結構なことだが公務の現場では矛盾に悩む声も多い。なぜなら多くの職場では昔より人手が少なく、業務が増えている。いまどきの役所は猛烈に忙しいのである。都政改革の一環として取り組む東京都の例を手がかりに考えてみたい。

なぜ「働き方改革」なのか?

 働き方改革は、より具体には「ワークライフバランス(WLB)」「子育て支援」そして「ダイバーシティ」といった言葉で語られる。根っこには少子化への焦りと人手不足問題がある。電通の新人の痛ましい事件も拍車をかけた。

 これは過剰労働と低生産性というわが国の伝統的課題への直視を意味するが、単に労働者の雇用環境の改善にとどまらない。女性に優しい職場づくり、男性の家事参加の促進、男女平等、ひいては性別、年齢、各種障害、人種、言語、LGBTなどを含む多様性のある人材が協働できる職場づくり、そしてそれが創造性を産む人材を育む――といった風に課題は樹形図のように広がる。

 だからまさに国家戦略課題であり、今の安倍政権はこうした本質をとらえ、うまく旗振りをしていると思う(「成長戦略」という題目の時代遅れ感やアベノミクスの成否や是非はさておき)。

役所が取り組む意味

 明治以来、わが国は新しい機材、技術、仕事のやり方を「役所」が率先して取り入れ、それを民に普及する手法を使ってきた。男女均等雇用、週休2日制、クールビズなどが典型だろう。鳴り物入りでお堅い役所がやり始めると安心して金融機関や大企業も従い、やがて全業種、中小企業などに広まっていく。これが現実である(ベンチャーなどは無関係に自由にやっているが)。

 今回のWLBも同じで、役所の名物だった「通常残業」が消え、おそらく「定時帰宅」が次第に定着するだろう。だが、実現は簡単ではない。業務はますます複雑化し、人手はますます不足する。今はまだ、職場単位の運動論(「早く帰ろう」の掛け声)でいいが、徹底させるには本格的な業務改革が必要になる。もちろんITの発展が前提だが、それも業務プロセスの見直しが必要になる。