消費税8%のうち6.3%は国へ、1.7%は地方に配分される。だが、その際に都会には少なめに、地方には多めに配分される。この比率が今般、さらに地方に手厚く変えられることになった。その決定を巡って東京都や大阪府は国に抗議をしている。何が起きているのか、資料を見たがとても複雑な説明でよくわからない。ようやく理解し、一般の住民の方々にもわかる説明を作ってみた。

14%と12%の差で年間1000億円

 都民が1万円のものを買うと消費税が800円かかる。そのうち630円は国が、170円は自治体が使う制度になっている。

 したがってある渋谷区民が地元のスーパーで1万円を使ったとすると、渋谷区には85円、東京都には85円が配分され、保育所や道路補修などの予算に使われるはずだ。しかし、実際には170円ではなく23円(都と区の合計)しか、東京には配分されない。消費税は、余裕のある都会が地方を支援する仕組みになっているからである。

 さて、ここからが本題である。今回、国は東京に配分するお金をさらに20円に下げる(3円減)と決めた。今まででも自治体の取り分の全体の約14%弱しか東京に配分されていなかった。それが今回はさらに約12%に下がるのである。

 「1万円のお買い物をしたときの3円。配分比率にしてたった2ポイント弱の違いではないか」と思われるかもしれない。しかし、こうして東京全体で国に奪われるお金は年間で1000億円、都民一人あたり7270円にもなる。

 国全体として困っている地方を助けるのは当然である。そのために所得税、法人税など国の税金の仕組みは都会の税収で地方を助け、お金持ちが多めに税金を払う仕組みにもなっている。

 しかし、一方では都会にますます人が集まり、自治体としては消防救急隊、警察、病院、公園など大きな設備が必要である。そこで消費税については地産地消、つまり地元で使われたお金の一定割合をその土地に戻す考え方をとってきた。また、「一部は地元に戻ってくる」という合意のもと、国民は消費税の8%への増税を認めたわけである。

 しかし、今回の国の決定は、本来は国が負担すべき費用(地方を支援する財源)をいきなり都民に押し付ける、という構図である。 そもそも国は税収が大幅に増えているにもかかわらず予算の見直しや行政改革ができていない。今回、都から国が収奪する1000億円は、本来は国の税収の増加分や行政改革で捻出できたはずのものなのである。つまり、国は自らの財源捻出の手当てをせずに都民に負担だけを押し付けているといえるのではないか。

国による都の税金収奪は都民一人当たり5万円を超える

 東京都はこの10年で約1兆円分(年間約1000億円分)の事業の見直し(予算削減)をしてきた。都民一人当たりの借金残高もこの20年間で55万円から38万円へと約3割減った。一方で国の借金は国民一人当たりで233万円から697万円と約3倍にも増えている。国は自らの経営努力を怠り、自らの負担分を東京都に負担させてきた。正直者が馬鹿を見る構図ではないか。

 実は国による都民の税の収奪は、今回が初めてではない。これまでにも法人地方税の一部が国に収奪されてきた。この額は都民一人当たりで年間4万7140円にもなる。これに今回の7270円を加えると年間5万4410円に上る。

 このような国のやり方は憲法の地方自治の理念に反するものでもある。国による都市部の税金収奪は一見、都会と地方の格差是正のように見える。だが、そうではない。格差是正はかまわないが、財源捻出の方法は都会からの収奪であってはならない。まず国が自らの無駄を点検し捻出の余地がないかどうか考える。どうしても捻出できないときは都会が支援することもありえるが、その場合は都会側が検討、判断すべきだ。国が都市部の自治体の意向も聞かずに勝手に配分基準を変えるのは文字通り、”税金泥棒”ではないか。今回の事件は、都会の住民の国に対する信頼感を著しく下げる事件だったといえる。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山 信一(うえやま・しんいち) 慶應義塾大学総合政策学部教授。旧運輸省、マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。国土交通省政策評価会委員(座長)、大阪府・市特別顧問、新潟市政策改革本部統括、東京都顧問および都政改革本部特別顧問も務める。専門は経営改革と公共経営。著書に『検証大阪維新改革』(ぎょうせい)、『組織がみるみる変わる改革力』(朝日新書)、『公共経営の再構築-大阪から日本を変える』(日経BP社)、『大阪維新 橋下改革が日本を変える』(角川SSC新書)、『行政の経営分析-大阪市の挑戦』(時事通信社)など多数。