米Amazon.comは中核であるeコマース事業のほか、eコマースの商品を迅速に届ける即時配達事業と、書籍を対面販売する店舗やスーパーマーケットといった実店舗事業を持つ。先ごろ米Wall Street Journalが伝えたところによると、同社はこのほど即時配達と実店舗の事業部門を統合し、Jeff Bezos最高経営責任者(CEO)の腹心であるSteve Kessel(スティーブ・ケセル)氏という人物が事業を統括することになった。

 Kessel氏は、電子書籍端末「Kindle」やタブレット端末「Fire Tablet」といったハードウエア製品の事業を率いた経歴を持つ人物。2015年からは書籍の対面販売などの実店舗事業を手がけ、代金支払いの自動化など先進的な取り組みを進めている。Amazonは2017年8月に米高級スーパーマーケットチェーン「Whole Foods Market」の買収を完了したが、その際もKessel氏がAmazon小売り部門トップの直属の部下として買収に関わった。

 実店舗事業の指揮を執ってきた同氏が新たな役職に就くことで、今後Amazonでは実店舗とeコマースの統合が進む可能性がある。少なくともこの人事は、Amazon内部で新たな戦略が打ち出されたことを意味していると、アナリストや業界関係者は見ている。

「AmazonFresh」「Whole Foods Market」「Amazon Books」などを統括

 Wall Street Journalによると、Kessel氏が統括する事業は、最短1時間以内で配送する「Prime Now」や生鮮食料品ネット販売「AmazonFresh」といったPrime会員向けeコマース事業と、買収したWhole Foods Marketや書店事業「Amazon Books」、実験中のレジ不要のコンビニエンスストア「Amazon Go」などの実店舗事業である。

 一部のアナリストが考える今後の展開は、Prime Now、AmazonFresh、Whole Foods Marketにおける食料品サプライチェーンの統合や、Whole Foods Market商品の即時配達だ。これに加えPrime NowとAmazonFreshといった即時配達の分野で、Kessel氏がこれまでAmazon BooksやAmazon Goで実施したような最先端技術の取り込みが加速すると見る向きもある。

eコマースの販売データを実店舗に活用

 Amazonの今後の展開を推測するうえでヒントとなるのは、最先端技術の実験場であるAmazon BooksとAmazon Goと言ってよい。

 例えばAmazon Booksでは、陳列している書籍に価格表示がない。その代わり店員は顧客に対し、自分のスマートフォンを本にかざして、画面で価格などの書籍情報を見るよう促している。Amazonは米国で、Prime会員に向けて書籍を他社よりも安く販売する戦略をとっているが、それをAmazon Booksでも行っている。価格は常に変化するため、スマートフォンで確認するのが最良の方法、というのが同社の考えだ。

 店舗内の商品の価格を、スマートフォンを使って他店やネット通販と比較することを「ショールーミング」と言う。こうした顧客の行動は一般に小売店に損失を与えるとされるが、Amazonはあえて自社店舗でショールーミングをやってもらうよう顧客に促している。さらに同社は書籍のネット販売データをAmazon Booksで活用している。例えば地域ごとに異なる書籍のニーズをネット販売データから分析し、Amazon Booksの品ぞろえに反映することで、販売促進を図っている。

 こうしたeコマースと実店舗の連携はWhole Foods Marketとの間でも行われている。同社は既にWhole Foods Marketのプライベートブランド(PB)商品をAmazonのサイトで販売している。今後はこれらの販売データを用い、Whole Foods Market各店舗の品ぞろえに生かしていくはずだ。