前回は、顧客や買い手の行動や心理が働くメカニズム、つまり行動経済学の知識をしっかりと押さえておかないと、データで人々を納得させ現場の意思決定につなげるストーリーは描けないことを説明しました。

 今回は、メカニズムを無視した“ブラックボックス型分析”では決して明らかにできない現象で、様々な場面で現れる“使える行動経済学の知識”である「妥協効果」と「魅力効果」を紹介します。これらはまとめて「文脈効果」と呼ばれています。

どっちも取りたい ―妥協効果―

 まずは妥協効果です。説明のため、あなたがモバイル通信サービスAを提供している会社にいるとしましょう。サービスAは高速通信に優れています。競合他社はサービスBを提供していて、地方や地下街など、使えるカバー率が高いとします。

 さらにサービスAは、サービスBと市場シェアを二分しています。「あまり出張しないものの動画やデータのやり取りが多い」という通信速度を重視する顧客はサービスAを選択。「どこでもつながることが大事」といった営業担当者はサービスBを選ぶなど、シェアは拮抗しています()。

図●スペックが対照的な2商品の市場で起こる文脈効果
図●スペックが対照的な2商品の市場で起こる文脈効果